メンタルヘルス対策における産業保健師の役割は?職場支援はどう行うの?
近年、メンタルヘルスという言葉をよく耳にするようになりました。
企業においてもメンタルヘルス対策を行う必要があるということは、社内での健康管理担当者の方も耳にしたことがあるのではないでしょうか。
メンタルヘルス対策とは何なのか、メンタルヘルス対策において産業保健師はどのような役割を持っているのかについて、詳しく解説していきます。
メンタルヘルスとは?
メンタルヘルスとは心の健康状態のことを指し、心の元気さと考えると分かりやすいです。
気持ちが落ち着いて安定しており、日々の生活を前向きに過ごせる状態が、メンタルヘルスが良好な状態と言います。
メンタルヘルスが良好な状態は、仕事やプライベートで困難さやストレスを感じることがあっても、うまく対処できたり、良好な人間関係を築くことができやすいと言われています。
企業でメンタルヘルス対策が必要な理由は?
では、企業においてメンタルヘルス対策が必要なのはなぜでしょうか。
- 生産性の向上
従業員のメンタルヘルスが良好であると、仕事に集中しやすく、積極的に業務に取り組めるため、生産性が向上します。
一方、メンタルヘルスが悪化すると、欠勤や遅刻、業務効率の低下が発生し、企業の業績に悪影響を及ぼします。
健康問題やストレスなどで本来のパフォーマンスを発揮できず、生産性が低下している状態をプレゼンティーズムといいます。 - 人材確保
メンタルヘルス問題が原因での離職は企業にとって大きな損失です。
職場のストレスを軽減し、従業員が働きやすい環境を整えることで、優秀な人材の離職を防ぎます。
また、離職までは至らなくとも、メンタルヘルスの不調は治療期間が長くなりがちのため、本来のパフォーマンスが発揮できない期間も長くなることもありえます。 - 法的義務
企業のメンタルヘルス対策のひとつに「ストレスチェック制度」があります。この制度は、2014年の労働安全衛生法改正により義務され、2015年から施行されました。
従業員50人以上の事業場は毎年、従業員に対してストレスチェックを実施することが義務付けられています。
ストレスチェックの目的は、従業員が自身のストレス状態を把握し、必要な場合には専門家のサポートを受けられるようにすることです。
また、職場の集団結果をもとに職場の改善活動を行うことが努力義務として企業に求められています。 - 企業イメージの向上
健康に配慮した職場環境では、従業員が本来の力を発揮でき、仕事の効率も上がるため、結果的に企業全体の生産性が向上します。
満足度の高い従業員は企業に対して帰属意識を持ちやすく、外部にも良い印象を伝えます。
また、健康への取り組みは企業の魅力の一つとして、求職者が重視する項目の一つと言われています。
メンタルヘルス対策の重要性は今後も高まる?
メンタルヘルス対策を含む健康経営に取り組む企業は年々増加しています。
企業での健康づくりが従業員にとっても企業にとっても重要であることが認知されはじめており、今後も重要性は高まると言われています。
メンタルヘルス対策の重要性が高まっている背景の一つに、精神障害による労災の問題があります。
精神障害による労災の請求件数、支給決定件数は経年で増加傾向となっています。
こういった状況からメンタルヘルス対策が今後も重要視されていくことが予測できます。
厚生労働省は、令和4年度の「過労死等※1の労災補償状況」 過労死等公表 (mhlw.go.jp)より引用
メンタルヘルス対策に必要なスキルとは
メンタルヘルス対策が企業にとって大切であることがお分かりいただけたと思います。
では、実際にメンタルヘルス対策を行っていくにはどのようなスキルが必要となるのでしょうか。
- コミュニケーションスキル
従業員と良好な関係を築き、悩みや不安を安心して相談できる雰囲気を作る能力が必要です。積極的に話を聞き、共感しながら適切なフィードバックを提供することが重要です。 - メンタルヘルスに関する知識
メンタルヘルスやストレスの基礎知識、心理学の基本を理解していることが求められます。
これにより、ストレスの兆候を早期に察知し、適切なサポートを行うことができます。 - リスクマネジメントスキル
メンタルヘルス問題は、業務効率の低下や離職など、企業にとってリスクとなります。そのため、早期発見と対策が重要であり、リスクを最小限に抑えるためのスキルが求められます。
また、労働安全衛生法に基づく法的知識も必要となります。
メンタルヘルス対策における産業保健師の役割
企業におけるメンタルヘルス対策の推進は非常に重要です。しかしながら、対策に必要な医学的知識を持っている担当者ばかりではないため対策を進めていくことに難しさを感じる場合もあります。
人事総務といった担当者では専門知識が不足しているために判断が難しい場合もあり、心理的負担にもなりかねません。
そのような場合に活躍するのが産業保健師です。メンタルヘルス対策における産業保健師の役割をいくつか見てみましょう。
メンタルヘルス対策の計画を実施
産業保健師は、看護師資格を取得したうえで保健師の国家試験に合格した医療の専門職です。
そのため、メンタルヘルス対策に必要なスキルを有しており、健康診断やストレスチェックなどの結果から、職場や企業全体のメンタルヘルスケア対策の方針や計画を策定し、その実施をリードします。
具体的には、職場の作業環境の改善、健康教育の企画実施などがあります。
特に健康教育は主な産業保健師の役割となり、メンタルヘルス全般についての知識や、管理者向けの研修が行われることが多くあります。
従業員の個別相談とサポート
産業保健師は、従業員が抱えるメンタルヘルスの問題に対して個別相談の窓口となっていることが多いです。
体調を確認し、適切なアドバイスを行ったり、専門機関への受診を勧めることもあります。また、職場でのストレスや人間関係など、メンタル面の不安を聞き取り、サポートする役割を担います。
必要に応じ、職場での様子や仕事のパフォーマンスを確認するために上司と連携することもあります。
医療の専門知識があるからこそ適切な対応をとることができます。
また、医療職ではない人事総務部門や職場上司に現在の状態を分かりやすく伝えることも、産業保健師の大切な役割のひとつとなっています。
職場環境の評価と改善
産業保健師は、職場の環境が従業員のメンタルヘルスに与える影響を評価し、問題点を特定します。例えば、過重労働や不適切なコミュニケーションが見られる場合、その改善策を提案し、働きやすい職場環境作りをサポートします。
産業医を選任している企業では、産業医と連携を取りながら職場巡視を行ったり、対策を立てることもあります。
身近で安心できる存在
産業保健師にも当然それぞれの個性がありますが、私の経験上は、面倒見がよく、話を上手に聞いてくれる方が多いです。
そのため、従業員や人事総務、職場上司など周りの方々と良好な関係を構築でき、どの方面からも頼られる、いると安心する存在となっていることが多くあります。
関係性が構築されていると軽微な問題でも相談や共有されやすくなり、早期に対応することが可能となります。
この人がいるから安心して本来の業務に集中できると思ってもらえる存在であることも、産業保健師の大切な役割のひとつであり、早期発見・早期対応が大切なメンタルヘルス対策においても重要になります。
また、メンタルヘルス対策の役割を持つ産業医がいることもありますが、医師のため担当者や従業員にとって相談のハードルが高い場合もあります。
そのような時にも、産業保健師は産業医よりも従業員にとって身近な存在であることが多いため、相談のハードルが下がり、より多くの問題を早期に拾い上げられることもあります。
実際に、産業医に相談していい内容なのか迷っている、産業医に相談する前に一度話を聞いてほしいという相談をいただくケースもよくあります。
早期での対応が大切なメンタルヘルス対策だからこそ、産業保健師が身近で安心して相談できる存在であることが大事な役割です。
健康教育などの機会も活かし、社内での認知を高めておきましょう。
まとめ
産業保健師は、企業におけるメンタルヘルス対策において、相談窓口や予防策の提案・実施、職場環境の改善や健康支援を担う専門的役割を果たします。
また、従業員や人事総務部門にとって身近な存在であり、問題の拾い上げや早期発見・早期対応には欠かせない存在です。
メンタルヘルス対策を推進したい企業様は、安心して頼れるパートナーとなる産業保健師をぜひ見つけてくださいね。