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【現役産業医解説】45時間 / 60時間 / 80時間 — 長時間労働の「3つのライン」を人事担当者はどう読み分けるか

2026 6/18
産業保健全般
2026年5月9日2026年6月18日

「45時間と80時間は知っているけど、60時間はあまり意識していない」——人事担当者から本当によく聞く声です。実は60時間は「過労死リスクの傾斜が始まるライン」として現役産業医が日常的に使っている重要指標。本記事ではこの3ラインの意味と、社内運用での読み分け方を整理します。

「うちの会社、月80時間を超える人はゼロなので、長時間労働対策はOKですよね?」

これが、私が現場でもっとも危ないと感じる発言です。80時間がゼロでも、60〜80時間の社員が常態化していれば、過労死リスクは確実に上がっています。にもかかわらず「80時間ゼロ=安全」と誤認している企業は本当に多い。

目次

放置するとどうなるか — 「80時間以下なのに事案発生」の事例

「80時間以下なのに事案発生」の事例を示す図解。60〜80時間の残業が常態化し、本人が「100時間を超えていないから大丈夫」と認識する第1段階、健診で要治療レベルでも80時間未満のため面談対象外になりやすい第2段階、数年後に脳・心血管事案が発生し、労災調査で2〜6か月平均60〜80時間が評価対象として認定される第3段階を説明している。実務上は、45時間を警告レベル、60時間を監視レベル、80時間を介入レベルとして、勤怠と健診のクロスチェックを始めることが重要だと示している。
  • 第1段階:60〜80時間の残業が常態化、本人は「100時間越えてないから大丈夫」と認識
  • 第2段階:健診で要治療レベルの数値が出ても、80時間未満なので長時間労働者面談の対象外
  • 第3段階:数年後に脳・心血管事案が発生。労災調査で「2-6ヶ月平均で60-80時間に達していた」が認定される

労災認定基準は実は「単月100時間 OR 2-6ヶ月平均で80時間」を主基準とし、それを下回っても他の負荷要因と合わせて認定される枠組みになっています。60時間台は「すでに評価対象範囲」と考えるのが、実務的に正しい認識です。

本記事では、45時間・60時間・80時間の3つのラインの意味、それぞれを「警告レベル / 監視レベル / 介入レベル」に翻訳する社内運用、貴社で今すぐできる勤怠×健診クロスチェックの始め方までを解説します。

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3つのラインの意味 — 法令・医学・実務の3視点

45時間・60時間・80時間は、それぞれ違う根拠から決まっています。これを混同して理解している人事担当者が多いので、整理します。

ライン主な根拠意味運用上のレベル
45時間労働基準法 / 36協定原則の上限。常態的に超えると違法状態警告レベル
60時間医学的エビデンス過労死リスクの傾斜が始まる目安監視レベル
80時間労災認定基準過労死ライン (脳・心血管疾患の認定対象)介入レベル

45時間 = 「警告レベル」 36協定の上限

労働基準法36条 (36協定) で原則の時間外労働の上限として定められているのが45時間/月。これを常態的に超えると36協定違反、特別条項を結んでいない場合は違法状態です。

ただし45時間=過労死リスク開始ラインではありません。45時間は法令的に「ここまで」と決められているだけであり、医学的な意味は別です。多くの人事担当者がここを混同して、「45時間以下なら健康面でも問題なし」と誤認しています。

60時間 = 「監視レベル」 リスク傾斜の始まり

意外と知られていないのが、60時間が医学的なリスク傾斜の始まりであること。海外含む疫学研究では、月60時間台の残業を継続すると、心血管疾患・脳血管疾患の発症率が徐々に上昇することが示されています。

つまり「45時間を超えた瞬間にいきなりリスクが跳ね上がる」のではなく、60時間台から少しずつ上がり始めて、80時間で明確に高くなるというのが医学的事実です。45→60→80 の傾斜を、産業医は日常的に意識して面談しています。

80時間 = 「介入レベル」 過労死認定の判定ライン

80時間は労災認定基準で「過労死ライン」と呼ばれる水準。脳・心血管疾患・精神疾患の労災認定で、業務起因性を判定する主要指標として使われます。

万が一の重大事案発生時、「80時間を超える残業が常態化していた」が認定の決め手になります。逆に80時間を切っていても、他の負荷要因 (夜勤・出張・ハラスメント等) と合わせて認定されるケースもあるため、80時間以下=絶対安全 は誤認です。

3つのラインを「警告 / 監視 / 介入」のレベルに翻訳して運用するのが、現役産業医がお勧めする実務ロジックです。

3レベルの社内運用例 — 貴社で今すぐできる仕組み

「時間外労働の社内運用を3段階で示した図。レベル1は45〜60時間の警告レベルで、人事共有・本人と上司への通知・業務量見直しを行う。レベル2は60〜80時間の監視レベルで、産業医面談案内・健診リスク確認・上司へのエスカレーションを行う。レベル3は80時間以上の介入レベルで、産業医面談実施・就業制限判定・経営判断につなげる。」

3つのラインを社内運用に落とすときの、推奨パターンをご紹介します。

レベル1:警告レベル (45-60時間)

  • 該当者リストを月次で人事に共有
  • 本人と上司にメール通知 (「36協定の上限を超えていますよ」)
  • 3ヶ月連続で該当した場合は、業務量見直しの検討を上司に依頼

レベル2:監視レベル (60-80時間)

  • 該当者全員に産業医面談を任意で案内
  • 健診結果のリスク有無をクロスチェック (高血圧・メタボ等があれば優先面談)
  • 業務量見直しを上司にエスカレーション

レベル3:介入レベル (80時間以上)

  • 該当者全員に産業医面談を実施 (法令上の義務)
  • 健診リスク有無に関わらず、就業制限の必要性を産業医意見書で判定
  • 業務量・体制の経営判断をトリガーする (人員増強・業務分散・期限延長など)

この3レベル運用が回ると、「80時間を超えてから慌てる」企業から「60時間段階で監視を始める」企業へと質が変わります。

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よくある質問 — 「100時間」「2-6ヶ月平均」の意味

Q. 単月100時間と複数月平均80時間、両方覚えるべきですか?

労災認定基準は「単月100時間 OR 2-6ヶ月平均で80時間」です。単月でドカンと多い月があるパターンと、慢性的に多い月が続くパターン、両方が認定対象になります。実務上、両方を月次でモニターしてください。

Q. 36協定の特別条項を結べば、80時間超えても問題ない?

法令上は特別条項により単月100時間未満・複数月平均80時間以下で時間外労働が可能です。しかし「合法=健康面で問題なし」ではありません。法令と医学リスクは別軸で運用してください。

Q. 「みなし労働」「裁量労働制」では把握しなくていい?

みなし・裁量労働制でも、労働時間の実態把握 (在席時間・PCログ等) が安全配慮義務として求められる方向に法解釈が進んでいます。「みなしだから把握不要」は通用しません。

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相談前に準備していただく「3つの資料」

相談前に準備する資料を3つに整理した図。1つ目は直近6ヶ月の月別残業時間分布、2つ目は長時間労働者面談の運用ルール、3つ目は気になる社員の有無。データがない場合も、60時間台の該当者を確認する程度で相談できることを補足している。
  1. 直近6ヶ月の月別残業時間分布 (社員数を 45時間未満 / 45-60 / 60-80 / 80超 で集計したもの)
  2. 現状の長時間労働者面談の運用ルール (何時間以上で面談している、面談実施率、産業医意見書の有無)
  3. 気になる社員の有無 (60-80時間台で健診も気になる、など個別ケースがあれば)

※ データがなくても大丈夫です。「うちは月80時間ゼロのはずだけど、60時間台は誰もチェックしてない」という状況の確認だけでも、初回30分で運用改善の方向性が見えます。

まとめ — 「80時間ゼロ=安全」を卒業する

  • 45時間 = 法令ライン (警告レベル / 36協定)
  • 60時間 = 医学ライン (監視レベル / リスク傾斜の始まり)
  • 80時間 = 労災ライン (介入レベル / 過労死認定の判定)
  • 3レベルで社内運用を組むと、「80時間ゼロ=安全」を卒業できる
  • 健診とのクロスチェックで、ハイリスク群を早期発見できる

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この記事を書いた人

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産業保健解説メディア「さんぽちゃーと」編集長。株式会社サンポチャート代表取締役。株式会社豊田自動織機専属産業医の後、東海地方を中心に50事業所以上の職場健康管理に関わっている。資格:日本医師会認定産業医/博士(医学)/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/健康経営エキスパートアドバイザー。著書に40代から始めるあなたの予防医学(自由国民社)、図解入門ビジネス職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本(秀和システム新社)がある。

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