Profile:廣澤優里。産業医。専門は内科。日本医師会認定産業医、EAPコンサルタント、健康経営専門医、国家資格キャリアコンサルタント。2021年から産業医として活動し、人材、広告、飲食、小売、福祉施設など、幅広い業種の産業保健に携わっている。
内科医としての経験が、産業医活動の土台にある
ーーまず、廣澤先生が医師として大切にしていることを教えてください。
廣澤:医師としては、目の前の方が何に困っているのかを丁寧に聞くことを大切にしています。医学的な診断や治療ももちろん大事ですが、その方が日常生活や仕事の中で何に不安を感じているのか、どのような背景があるのかを理解することも同じくらい大切だと思っています。
ーー内科を専門にされたご経験は、産業医活動にもつながっていますか。。
産業医面談では、働く人の不調は一つの原因だけで説明できないことが少なくありません。体調の問題、職場環境、人間関係、働き方、家庭のことなどが重なっている場合もあります。健康診断の結果でも、「異常値を放置してしまうと、10年後ここまで悪化してしまう」という肌感が従業員さんへの健康管理にも役立っています。
ーー産業医として活動を始めたきっかけを教えてください。
廣澤:臨床の現場では、体調を崩してから医療につながる方を多く診てきました。一方で、働く人の健康を考えると、病気になってから対応するだけではなく、職場の中で早めに気づき、支えることが大切だと感じるようになりました。
産業医は、病院の外側で働く人を支える仕事です。企業、人事、職場、そして従業員本人の間に入りながら、よりよい働き方を一緒に考えていくところに大きな意義を感じています。
「話しやすい雰囲気」をつくることから面談は始まる

ーー従業員の方と面談するとき、最初に意識していることはありますか。
廣澤:まずは安心して話してもらえる雰囲気づくりを大切にしています。産業医面談というと、「何を聞かれるのだろう」「会社にどこまで伝わるのだろう」と緊張して来られる方もいます。
そのため、最初に面談の目的や、話した内容の扱いについてできるだけわかりやすく説明するようにしています。そのうえで、本人が話せる範囲から少しずつ話してもらうことを意識しています。
ーー本人がうまく言葉にできない不調や悩みもありますよね。
廣澤:あります。特にメンタルヘルスの面談では、本人も何に困っているのか整理できていないことがあります。「疲れている」「不安が強い」「仕事に行こうとするとつらい」といった言葉の奥に、業務量の問題、職場での役割、人間関係、キャリアへの不安などが隠れていることもあります。
そのため、急いで結論を出すのではなく、体調、仕事、生活、気持ちの変化を一つずつ確認しながら、本人と一緒に整理していくようにしています。
ーー産業医面談では、医学的な判断だけでなく、整理役としての役割も大きいですね。
廣澤:そう思います。産業医は治療を行う医師とは役割が異なります。本人の健康を守りながら、会社としてどのような配慮が必要か、どこまで働けるのか、何を調整すればよいのかを考える立場です。
医学的な視点だけでなく、職場で実際に運用できる形に落とし込むことが大切だと感じています。
メンタル不調は「病気」だけでなく、働き方やキャリアとも関係する
ーー廣澤先生は国家資格キャリアコンサルタントの資格もお持ちです。産業医活動にどのように活きていますか。
廣澤:産業医面談では、体調の相談から始まっても、話を聞いていくとキャリアの悩みにつながることがあります。
たとえば、「今の仕事を続けていけるのか」「今後どのような働き方をしたいのか」「職場で期待されている役割と自分の気持ちが合っていない」といった悩みです。これは医学的な問題だけでは整理しきれません。
国家資格であるキャリアコンサルタントの視点があることで、本人の価値観や今後の働き方についても、より丁寧に聞くことができます。
ーー「医学的には働けるが、本人の不安が強い」というケースもありますか。
廣澤:あります。復職支援などでは、主治医の診断書上は復職可能とされていても、本人が強い不安を抱えていることがあります。
そのようなときは、「働けるか、働けないか」だけで判断するのではなく、どの業務なら始められるのか、どのような配慮があれば安心して戻れるのか、どの段階で負荷を上げていくのかを考える必要があります。
本人の不安を置き去りにせず、職場側にも現実的に対応できる形を一緒に考えていくことが大切です。
ーー復職支援では、本人・人事・職場の意見がずれることもあると思います。そのときはどう整理されていますか。
廣澤:まず、それぞれの立場で見えているものが違うことを前提にします。本人は不安や体調の変化を感じていますし、人事は会社全体の安全配慮や制度運用を考えています。職場は日々の業務をどう回すかを考えています。
どれか一つの立場だけを優先すると、うまくいかないことがあります。産業医としては、医学的に必要な配慮を整理しつつ、会社として実行できる形に変換することを意識しています。
ーーキャリアコンサルタントを取得するメリットは産業医にありそうですか?
廣澤:もちろんです。人事制度や従業員を支援できる制度に関して理解度を高めることができます。人事担当者との共通言語を知ることで、企業側からの評価も上がるかと感じています。

産業医が力を発揮するには、企業との信頼関係が欠かせない

ーー企業担当者から相談を受けるとき、先生が意識していることはありますか。
廣澤:人事担当者の方も、悩みながら相談されていることが多いです。メンタル不調者への対応、復職判断、職場への共有範囲、本人への声かけなど、正解が一つではない問題が多いからです。
そのため、まずは担当者の方が何に困っているのかを丁寧に聞くようにしています。すぐに答えを出すというより、状況を整理しながら、会社として取れる選択肢を一緒に考えていくイメージです。
ーー企業側が安心して相談できる産業医であるために、大切なことは何だと思いますか。
廣澤:相談しやすさだと思います。産業医が専門的なことを一方的に伝えるだけでは、企業担当者も従業員も相談しにくくなってしまいます。
もちろん専門性は大切ですが、それを相手に伝わる言葉で説明することも大切です。人事担当者が「この内容は相談してよいのかな」と迷うようなことでも、早めに相談してもらえる関係をつくりたいと思っています。
ーー産業医が企業の中で信頼される存在になるには、何が必要でしょうか。
廣澤:継続的な関わりだと思います。一回の面談や一回の衛生委員会だけで信頼関係ができるわけではありません。
日々の相談に丁寧に対応すること、必要なときに医学的な意見を整理して伝えること、従業員にも人事にも偏りすぎず中立的に関わること。その積み重ねで、少しずつ信頼される存在になっていくのだと思います。
廣澤先生が考える、これからの産業保健

ーーこれからの産業保健で、特に大切になるテーマは何だと思いますか。
廣澤:働き方が多様化する中で、産業保健も一人ひとりの状況に合わせた支援がより重要になると思います。
リモートワーク、介護や育児との両立、キャリアの変化、メンタルヘルスの問題など、働く人を取り巻く課題は複雑になっています。だからこそ、産業医には、医学的な判断だけでなく、働く人の背景を理解し、企業と一緒に現実的な支援を考える力が求められると思います。
ーー今後、産業医としてさらに取り組んでいきたいことを教えてください。
廣澤:働く人が、体調や気持ちの不調を一人で抱え込まなくてよい職場づくりに関わっていきたいです。
また、企業担当者の方にとっても、産業医が相談しやすい存在でありたいと思っています。人事の方は、従業員対応の最前線で悩むことが多いと思います。そうしたときに、医学的な視点から一緒に整理できる存在でありたいです。
ーー最後に、企業の人事担当者や働く人に向けて、メッセージをお願いします。
廣澤:産業医は、体調を崩した人だけが相談する存在ではありません。働き方に不安があるとき、職場での配慮に迷うとき、健康経営をどう進めるか考えるときにも、活用していただける存在です。
不調が大きくなってからではなく、少し気になる段階で相談することで、できる支援の幅は広がります。働く人が安心して力を発揮できるように、企業の皆さんと一緒に考えていければと思います。
ーー本日はありがとうございました。
廣澤:ありがとうございました。
廣澤先生が関わるスタートアップ企業
廣澤先生は産業医としての活動だけでなく、医師としてスタートアップ企業でも活躍されています。先生が活躍されている3社のスタートアップ企業を紹介させていただきます。
株式会社Fikra

株式会社Fikraが運営するサービスmirumo(ミルモ)は、離れて暮らすご家族同士が、安心して生活するための医療の専門家による見守りサービスです。日常生活の見守りに加え、高齢者の抱える悩みへの寄り添いや認知症予防を通して、現代社会の生活環境にあったオンライン見守りサービスを提供します。
mimamo(見守りサービス) | 医療従事者による見守りサービス
株式会社DiveDot

医療従事者によるスポットコンサルサービス 。プロダクトニーズの検証や臨床現場のヒアリングをしたい企業と、副業をお探しの医師を結びつけるマッチングプラットフォームです。医療領域に参入する企業の迅速な事業開発をサポートしつつ、医師の働き方の多様化を実現します。
かかりつけフィットネス(株式会社Figment)

株式会社Figmentが運営するかかりつけフィットネスは、医療機関からフィットネスクラブへの橋渡しと運動習慣の継続的なサポートを実現するためのプラットフォームサービスです。産業医も企業訪問時に運動処方箋を作成することが可能です。
フィットネスクラブと医療機関の連携を支援する国内初のプラットフォームサービス
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