「うちの産業医、衛生委員会に一度も来たことがないんです。来てもらわないといけないものですか」——衛生委員会を担当している人事・衛生管理者の方から、しばしばいただく相談です。
先に結論です。産業医は衛生委員会の委員です(労働安全衛生法第18条第2項第3号)。ただ、毎回出席する義務は法令に明文がありません。毎月1回以上開く義務は会社の側にあります(労働安全衛生規則第23条第1項)。来ない産業医には、まず「職場巡視は法律で毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)と決まっています。巡視の日に合わせて衛生委員会に出てください」と頼んでください。来ない理由の多くは、先生が産業医の活動に重きを置いていない、そういう活動があることを知らない、契約に書いていない、といったケースが多いです。頼んでも来ないなら、産業保健の体制そのものを見直す(交代する)時期です。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。この記事は、産業医と衛生委員会の関係に絞って、法令の位置づけ、来ない理由、まず頼むこと、産業医が委員会ですること、交代の目安を書きます。衛生委員会そのものの作り方は衛生委員会とは?メンバー・進め方・年間テーマ、形だけになった委員会の立て直しは形骸化した衛生委員会を立て直すにあります。
産業医は衛生委員会に出席する義務がある?——委員だが、毎回の出席の明文はない

法令が決めているのは、次のことです。産業医は「産業医のうちから事業者が指名した者」として衛生委員会の委員になります。委員会を毎月1回以上開く義務、議事の記録を3年間保存する義務は、会社(事業者)の側にあります。そして産業医は、労働者の健康を確保する観点から、衛生委員会に調査審議を求めることができます。
| 決まり | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 委員 | 産業医のうちから事業者が指名した者が、衛生委員会の委員になる | 安衛法第18条第2項第3号 |
| 開催 | 事業者は、衛生委員会を毎月1回以上開催する | 安衛則第23条第1項 |
| 記録 | 開催のつど、委員会の意見と講じた措置、重要な議事を記録し、3年間保存する | 安衛則第23条第4項 |
| 産業医の権限 | 産業医は、労働者の健康を確保する観点から、衛生委員会に調査審議を求めることができる | 安衛則第23条第5項 |
| 巡視との関係 | 産業医の巡視は少なくとも毎月1回。会社が毎月1回以上、衛生管理者の巡視の結果と、衛生委員会の調査審議を経て決めた情報を産業医に提供し、会社が同意しているときは、少なくとも2か月に1回 | 安衛則第15条 |
「毎回出席しなければならない」という条文はありません。実務では、産業医が議事録で内容を確かめる形も取られています。ただ、委員である以上、一度も顔を出さず、意見も出さない状態は、会社が産業医を選任している意味を失わせます。衛生委員会の設置の義務と罰則は衛生委員会とは?の「設置義務と罰則」の章にあります。
産業医が衛生委員会に来ない理由——重きを置いていない・知らない・契約に書いていない

「来ない」「来ても何も言わない」という相談は、しばしばあります。理由で多いのは、次の3つです。
- 先生が産業医の活動にそこまで重きを置いていない: 本業の診療が中心で、産業医は付随的な仕事になっている
- そういう活動があることを知らない: 衛生委員会が開かれていること、産業医が委員であることを、先生が認識していない
- 契約に書いていない: 契約書に衛生委員会への出席が入っていないと、やらない先生がいる
契約に書いていないからやらない、というのは社会人としてどうかとは思いますが、実際には多いです。だから、頼むときは「法律」と「契約」の両方から話すと通ります。契約に衛生委員会を書いておく方法は産業医契約書の書き方|記載事項12項目にあります。
来ない産業医に、会社がまず頼むこと——巡視の日に衛生委員会を合わせる


まず頼むのは、「法律で決まっているので来てください」です。産業医の職場巡視は、少なくとも毎月1回、条件を満たせば2か月に1回と、法令で決まっています(労働安全衛生規則第15条)。巡視で会社に来る日に、衛生委員会を合わせて開く。これがいちばん通りやすい頼み方です。
- 巡視の日に合わせる: 衛生委員会の開催日を、産業医の巡視の日に固定する。巡視のあとに委員会、の順にすると、巡視で見たことをその場で話せる
- 議題を先に渡す: 当日の議題と、産業医に意見がほしい点(健診の結果・残業の状況・休職者の数など)を前もって送る
- 出られない回は議事録で: 欠席の回は議事録を送り、意見を返してもらう。記録に産業医の意見を残す
- 契約に書く: 更新のときに、巡視と衛生委員会を同じ日に行うことを契約書に入れる
巡視そのものの見どころは産業医職場巡視の注意点は?現場に行かないと法令違反?、衛生管理者と産業医の分担は産業医と衛生管理者のコミュニケーションのコツにまとめています。訪問の回数を隔月にする条件は産業医の訪問を隔月にできる?で解説しています。
産業医は衛生委員会で何をする?——出席して議論に加わり、気づきと事例を持ち込む


サンポチャートの産業医は、衛生委員会に出席して、議論に加わるスタンスです。会社から期待されるのは、健診の結果や残業の状況から「ここを見たほうがいい」という気づきを与えること、ほかの職場で起きた事例を紹介すること、法令の変更を伝えることです。
多くの会社で、職場巡視の日に衛生委員会を合わせています。巡視で見たことをその場で委員会に出せるので、産業医が参加して意味のある会になります。年間のテーマの組み方は衛生委員会とは?の「年間テーマの組み方」の章、マンネリになった委員会の変え方は形骸化した衛生委員会を立て直すにあります。
頼んでも来ないときは?——産業保健の体制を見直す目安


巡視の日に合わせても、議題を渡しても来ない。議事録を送っても意見が返らない。そうなったら、「そろそろ産業保健の体制を再構築するか」と考える時期です。労働基準監督署から、衛生委員会や産業医の関わりを指摘されることもあります。
- 巡視の日に合わせて頼んでも、半年以上出席がない
- 議事録を送っても、意見が返ってこない
- 健診の判定や面談も滞っていて、委員会だけの問題ではない
- 監督署に、産業医の関わりを指摘された
交代を決めたときの切り出し方は産業医の交代をいまの先生にどう切り出す?、手順は産業医の変更・交代の手順、後任の見積もりの見方は産業医の見積もりはどこを見る?にまとめています。
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よくある質問
Q1. 産業医が毎回欠席していると、法令違反になりますか?
産業医の出席そのものを義務づけた条文はありません。会社の義務は、産業医を委員に指名すること、毎月1回以上開催すること、記録を3年間保存することです。ただ、委員である産業医が一度も関わらない状態は、選任している意味を失わせます。
Q2. オンラインで出席してもらえますか?
できます。巡視の日に合わせて実際に出るのが基本ですが、出られない回はオンラインで加わる、議事録に意見を返す、という形も取れます。オンラインでできることと訪問が要ることは、別の記事で整理しています。
Q3. 産業医に、委員会で何を話してもらえばいいですか?
健診の結果の傾向、残業の状況と面接指導、休職者・復職者の状況、巡視で見たこと、季節の健康の話題(熱中症・インフルエンザ)、法令の変更です。議題を先に渡すと、産業医は準備して来られます。
Q4. 50人未満で衛生委員会がない会社は、産業医とどう話せばいいですか?
50人未満の事業場に衛生委員会の設置義務はありませんが、関係する労働者の意見を聴く機会を設けることになっています。顧問やスポットの産業医に、健診の判定や面談のときに職場の課題を聞く形で足ります。
Q5. 産業医の辞任や交代は、衛生委員会に報告しますか?
します。産業医が辞任したとき、または解任したときは、遅滞なく、その旨と理由を衛生委員会に報告します(労働安全衛生規則第13条第4項)。
まとめ
- 産業医は衛生委員会の委員(安衛法第18条)。毎回の出席を義務づけた条文はない。毎月1回以上の開催と記録は会社の義務(安衛則第23条)
- 来ない理由は、重きを置いていない・知らない・契約に書いていない
- まず「法律で巡視は毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)」と伝え、巡視の日に衛生委員会を合わせる。議題は先に渡す
- 産業医は出席して議論に加わり、気づきと事例を持ち込む。巡視と同じ日が、意味のある会にする近道
- 頼んでも来ないなら、産業保健の体制を見直す時期
出典: 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)第18条、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)第13条第4項・第15条・第23条。










