細江 隼 先生 プロフィール:株式会社中央総合産業医事務所 代表産業医。日本医師会認定産業医、医学博士、総合内科専門医、糖尿病専門医・指導医、健康経営アドバイザー。総合内科・糖尿病領域での診療・教育・研究経験をもとに、2021年より嘱託産業医として活動を開始。2024年に株式会社中央総合産業医事務所を設立し、現在はさまざまな業種の企業で産業医活動を行っている。
「正しい情報」だけでは、人はなかなか動けない
―― 先生が産業医として活動するうえで、大切にしていることを教えてください。
細江先生:もともと内科、とくに糖尿病などの慢性疾患の診療に関わることが多かったので、食事や運動などについて、その方の生活に合わせてお話をする場面が多くありました。
もちろん、医学的に正しい情報を伝えることは大切です。ただ、それをそのまま伝えただけでは、実際の行動にはなかなかつながらないこともあります。
―― 正しいことを伝えるだけでは足りない、と。
細江先生:そうですね。たとえば「運動しましょう」「食事に気をつけましょう」と言うだけでは、相手にとっては少し遠い話になってしまうことがあります。
その方の生活や仕事の状況を聞きながら、「これなら少しできそうだな」と思っていただける形にすることが大事だと思っています。
細江隼先生産業医の仕事でも同じで、専門的な知識をそのまま渡すのではなく、人事担当者や従業員の方が理解して、納得して、実際に使える形に整えて届けることを意識しています。
「腑に落ちる」ことが、行動変容の第一歩になる
―― 先生は「腑に落ちる」という言葉を大切にされている印象があります。
細江先生:はい。産業保健にはいろいろな知識がありますし、法令や制度、医学的な情報も大切です。
ただ、それを人事担当者の方や従業員の方が理解して、納得して、実際に動けるかどうか――そこに産業医として力をいれています。
―― たしかに、知識として知ることと、行動することは違いますよね。
細江先生:そうですね。現場の方は、目の前の仕事に集中されています。健康が大切だと思っていても、日々の業務の中でじっくり考える時間を取るのは難しいこともあります。
だからこそ、「これは自分に関係がある」と思ってもらえることが大切です。
健康診断の数字を、“自分ごと”として受け取ってもらう
―― 具体的に、従業員の方への伝え方で工夫していることはありますか?
細江先生:まずは、現実的に実践できることを一緒に考えるようにしています。
たとえば運動習慣をつけていただきたい場合でも、いきなりハードな運動を提案するのではなく、「一駅分歩いてみる」「休憩時間に少し立ち上がる」「細切れの時間で体を動かす」といった小さなステップからお話しすることがあります。
―― “頑張ってください”ではなく、“これならできそう”に変えるんですね。
細江先生:そうですね。小さく始められることのほうが、実際に取り入れてもらいやすいと思います。
以前、健康診断の結果で数値が高い方がいらっしゃいました。その方は病院に行くように言われてはいたものの、「この数字がどういう意味なのか」「自分の体にどう影響するのか」があまり腑に落ちていない様子でした。
そこで、例えば健診で指摘された血糖や脂質の数値が何を意味するのか、将来的にどのような健康リスクにつながり得るのか、受診や生活面でどのような対応が考えられるのかを、イラスト入りのパンフレットを見ながらわかりやすくお話ししました。
すると、「健康診断の結果を見るときに、こういう話をしてもらえると、自分の健康のことが分かった気がする」と言ってくださって。実際に受診にもつながり、その後の治療や生活改善もうまく進んだと聞いています。
―― まさに、“数字”が“自分ごと”になった瞬間ですね。
細江先生:そうかもしれません。健康診断の結果は、数字だけを見ると少し距離があります。でも、その意味や将来のリスク、今できることが分かると、受け止め方が変わることがあります。
熱中症パンフレットで、現場の関心が変わった
―― 健康情報の資料も、先生ご自身で作られているのですか?
細江先生:まずは厚生労働省や学会などの情報を確認して、正しい知識を整理します。そのうえで、必要に応じてA4一枚くらいのパンフレットにまとめることがあります。
イラストや図解を入れて、短時間で見ても分かりやすい形にすることを意識しています。
―― どのようなテーマで作ることが多いですか?
細江先生:健康便りのような形で定期的に出すこともありますし、その時期に必要なトピックを扱うこともあります。
たとえば、暑くなる時期には熱中症対策が重要になります。外回りの多い営業職の方がいる職場で、会社として熱中症リスクを心配されていたことがありました。
そこで、厚生労働省などの情報を確認したうえで、現場の方が短時間で要点を確認できるパンフレットを作成しました。
―― それを会社の中で共有されたんですね。
細江先生:はい。全体ミーティングの場で提示していただいたところ、「社員が興味を持ってよく聞いてくれた」というお話をいただきました。



もちろん、熱中症対策はパンフレットを作れば終わりではありません。体調不良時の申告や対応の流れを会社として確認し、現場に周知していただくことが大切です。ただ、その補助資料として、分かりやすく、読んでもらえる形にすることは重要だと思っています。
会社ごとの社風や現場に合わせて、産業医として意見を伝える
―― 企業と関わるうえで、産業医として注意していることはありますか?
細江先生:会社ごとに社風や業種、現場の状況はかなり違います。IT系のオフィス、小売業の現場、運送会社など、それぞれ注意すべきポイントも異なります。
まずは、その会社がどのような現場なのか、どんな文化があるのかを確認しながら関わることを大切にしています。
―― 会社ごとに、かなり見方を変えているのですね。
細江先生:はい。ただ一方で、産業医として必要な意見はきちんと伝える必要があります。
企業では成果や事業の継続も大切です。そのうえで、従業員の健康を守ることも大切ですし、健康管理や健康経営の視点は、結果的に生産性にもつながると思っています。
ですので、会社の状況を理解しながらも、産業医として伝えるべきことは伝える。そのバランスを大事にしています。
健康経営を、資格取得だけで終わらせない
―― 最近は、健康経営に取り組む企業も増えていますか?
細江先生:増えていると感じます。健康経営優良法人を取得したい、あるいは取得後も維持していきたいというご相談もあります。
また、認定取得まではまだ考えていなくても、「健康経営の取り組み自体はしっかり進めたい」という企業もあります。
―― 採用や定着にも関わるテーマですね。
細江先生:そうですね。今は人材がとても貴重な時代です。健康経営に取り組んでいることは、求職者へのアピールにもなりますし、入社した社員の方が安心して働き続けることにもつながると思います。
ただ、私としては、健康経営優良法人を取ることだけが目的ではないと思っています。



認定や資格も大切ですが、それだけではなく、本当に良い形で従業員の健康づくりや職場環境の改善につなげていく。そこをサポートしていきたいと考えています。
人事担当者・働く人・これから産業医を始める先生へ
―― 最後に、人事担当者の方へメッセージをお願いします。
細江先生:人事・総務の方は、本当にさまざまな業務を抱えていらっしゃいます。その中で、休職・復職対応、健診結果の事後措置、メンタル不調への対応など、産業保健に関わる問題も出てきます。
気になることがあれば、抱え込まずに産業医へ相談してほしいと思います。
産業医の視点から意見を述べることで、解決の糸口が見えてくることもあります。その場ですぐに解決できることもあれば、時間をかけて対応する必要があることもありますが、産業医が継続的に伴走することで、より安全に、適切に進めやすくなると思います。
―― 働く方へのメッセージもお願いします。
細江先生:働くうえで健康面の不安があるときは、抱え込まないでいただきたいです。
「気になっているけれど周囲に話しにくい」「受診したほうがいいのか分からない」という方もいらっしゃいます。そうしたときに、産業医面談を依頼するという選択肢もあります。
会社の人事や相談窓口に声をかけていただくことで、産業医面談につながる場合があります。必要に応じて、受診の必要性や就業上の配慮についてもお話しできると思います。
―― これから産業医を始める先生方へも、メッセージをいただけますか。
細江先生:産業医の働き方には、産業医をメインにする形もあれば、臨床をしながら活動の幅を広げる形もあります。
最近は、若手向けの書籍や情報発信、コミュニティも増えています。そうした場を活用すると、活動の幅が広がると思います。



私自身も、始めた頃にいろいろな先生方に教えていただきながら、産業医の仕事を始めることができました。もちろん、学会に参加したり、書籍を読んだりして学び続けることも大切です。興味がある方は、まず一歩始めてみるのも良いのではないかと思います。
細江先生へのご相談・お問い合わせ


| 事務所名 | 株式会社中央総合産業医事務所 |
| 代表 | 細江 隼 |
| 所在地 | 〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町8-13 天翔オフィス日本橋 |
| 営業時間 | 平日9:00~18:00 |
| 事業内容 | 嘱託産業医業務、健康経営支援、健診事後措置、メンタルヘルス対応、復職支援、衛生委員会支援、健康情報提供など |









