産業医と公認心理士の違いとは?現役産業医が解説します。

産業医と公認心理士の違いとは?現役産業医が解説します。

「心の健康」という言葉はよく耳にするけれど、一体どんな時に相談すればいいのでしょうか?会社で働く上で、心の健康を守るために活躍している「産業医」と「公認心理士」。あなたは、この2つの専門職の違いをご存知ですか?

産業医と公認心理士は、どちらも働く人の心の健康を守るという共通の目的を持ちながらも、その役割や仕事内容は大きく異なります。

この記事では、現役産業医が、分かりやすく2つの職種の役割と違いについて解説します。仕事で感じるストレスや悩み、メンタルヘルスの不調など、あなたの状況に合った相談相手を見つけるためのヒントになるはずです。

産業医と公認心理士の役割と仕事内容の違い

働く人にとって、心身ともに健康でいることは、充実した仕事をし、人生を楽しむためにとても大切なことです。しかし、仕事によるストレスや人間関係の悩みなど、職場には心の健康を脅かす様々な要因が存在します。

このような中、働く人の心の健康を守るために活躍しているのが、産業医と公認心理士です。どちらも、働く人たちが元気に過ごせるようにサポートしてくれる存在ですが、その役割や仕事内容は異なります。

今回は、産業医と公認心理士の違いについて解説します。

産業医の主な職務と責任内容

産業医は、会社で働く人たちの健康を守る存在です。

例えば、労働安全衛生法という法律で、年に一度の健康診断が義務付けられています。産業医は、この健康診断の結果を見て、皆さんの健康状態をチェックするのが大切な仕事の1つです。

もし、健康診断で「少し血糖値が高いね。放っておくと糖尿病になるリスクが高くなるよ」とか「血圧が高いままだと、脳卒中や心臓病のリスクが高くなるよ」といった気になる結果が出た場合、産業医の先生から、食生活や運動などの生活習慣を改善するアドバイスをもらったり、必要があれば病院への受診を勧められたりします。

また、産業医は、会社で働く人たちが働きすぎで疲れてしまったり、体調を崩したりしないよう、会社全体の長時間労働の状況を把握し、改善策を提案します。

さらに、仕事が原因でうつ病などの病気になってしまった場合は、治療を受けながら仕事も続けられるようサポートしたり、職場復帰のお手伝いをしたりします。

このように、産業医は、働く人たちが健康で安心して働き続けられるよう、様々な角度からサポートする役割を担っています。

公認心理士の主な職務と責任内容

臨床心理士は、「心の専門家」として、働く人たちの心の問題に寄り添い、解決へと導くサポートをします。

例えば、仕事で大きなミスをしてしまい、そのことがきっかけで不安や焦りが強くなり、眠れなくなってしまったとします。

このような場合、公認心理士は、じっくりと時間をかけて話を聞いてくれ、心の内にある不安や悩みに共感しながら、問題解決に向けて一緒に考えてくれます。

また、心の状態をより詳しく知るために、心理検査を行うこともあります。心理検査には、性格や考え方のパターンを調べる検査や、うつ病などの精神的な病気を調べる検査など、様々な種類があります。

このように、公認心理士は、心の専門家として、働く人たちが抱える心の問題に専門的な知識と技術を用いて対応します。

職場環境における具体的なアプローチの違い

産業医も公認心理士も、働く人の心の健康を守るという目的は同じですが、そのアプローチ方法が異なります。

産業医はどちらかといえば、会社の立場から、従業員の健康状態や労働環境を客観的に評価し、法律に基づいた対策を講じます。

例えば、長時間労働が原因で、心身の不調を訴える従業員がいる場合、産業医は会社に対して、労働時間の短縮や業務量の調整などを勧告することができます。

一方、公認心理士は、従業員一人ひとりの心に寄り添い、個別の悩みに対応します。

例えば、「新しい仕事に挑戦したいけれど、失敗するのが怖くてなかなか一歩を踏み出せない」という悩みを抱えている従業員に対して、公認心理士は、カウンセリングを通して、従業員の不安な気持ちに共感しながら、自信をつけ、行動に移せるようにサポートします。

このように、産業医と公認心理士は、職場環境へのアプローチ方法が異なります。

職場は、私たちが人生の大部分を過ごす場所で、そこでの人間関係や仕事のプレッシャーは、時に大きなストレスとなり、心の健康に影響を及ぼすことがあります。

例えば、新しいプロジェクトを任されて、プレッシャーから夜も眠れなくなってしまったAさんを考えてみましょう。Aさんは、責任感が強く、完璧主義な性格です。「失敗したらどうしよう」「周りの期待に応えられなかったらどうしよう」という不安が頭から離れず、仕事にも集中できなくなってしまいました。

また、上司からの厳しい叱責や同僚とのトラブルが原因で、憂鬱な気分が続き、食欲不振や倦怠感を訴えるBさんもいます。Bさんは、以前は明るく社交的な性格でしたが、最近は、人と話すのも億劫になり、仕事に行くことさえも苦痛に感じています。

このように、職場におけるメンタルヘルス問題は、その原因も症状も人それぞれです。大切なことは、自分自身の心の状態に目を向け、つらいと感じたら、一人で抱え込まずに、早めに相談することが大切です。

職場でのメンタルヘルス問題への対応

産業医に相談すべき状況

産業医は、「職場のホームドクター」として、働く人たちの心身の健康をサポートする医師です。

例えば、Aさんのように、仕事のプレッシャーから不眠や不安などの症状が現れている場合、産業医に相談することで、症状に合わせたアドバイスや受診勧奨、必要であれば休職の指示などを受けることができます。

また、Bさんのように、職場の人間関係が原因で、うつ病などの精神疾患を発症するケースも少なくありません。産業医は、会社と従業員の橋渡し役として、職場環境の改善や業務内容の調整など、従業員が安心して働き続けられるよう、会社側への働きかけも行います。

公認心理士に相談すべき状況

公認心理士は、心の専門家として、対話を通して心の問題解決をサポートします。

例えば、Aさんのように、「失敗するのが怖い」「周りの期待に応えられないかもしれない」という不安や恐怖心が強い場合、公認心理士は、認知行動療法などの心理療法を用いて、Aさんの思考パターンや行動パターンを見直し、不安を軽減するためのサポートを行います。

また、Bさんのように、人間関係のストレスから、抑うつ状態や自尊心の低下が見られる場合、公認心理士は、Bさんの話にじっくりと耳を傾け、共感しながら、心の傷を癒し、自信を取り戻せるよう、寄り添いながらサポートします。

産業医と公認心理士の連携の重要性

産業医と公認心理士は、それぞれ専門性が異なりますが、働く人のメンタルヘルスを守るためには、互いに連携し、それぞれの専門性を活かすことが重要です。

例えば、産業医が、従業員のメンタルヘルス不調に気づいた場合、公認心理士によるカウンセリングが必要と判断すれば、速やかに専門機関を紹介することができます。

また、公認心理士は、カウンセリングを通じて、職場環境に問題点があると感じた場合、産業医に情報を共有し、職場環境の改善に向けた協働体制を築くことが大切です。

産業医は、会社の立場から、従業員の健康状態や労働環境を客観的に評価し、法律に基づいた対策を講じる役割を担います。一方、公認心理士は、従業員一人ひとりの心に寄り添い、個別の悩みに対応します。このように、産業医と公認心理士は、職場環境へのアプローチ方法が異なりますが、それぞれの専門性を生かし、連携することで、よりきめ細かく効果的なメンタルヘルス対策を行うことができると言えます。

資格取得とキャリアパスの違い

産業医と公認心理士は、どちらも人々の心の健康を守るという点では共通していますが、求められる専門性や働く場所は大きく異なります。

産業医と公認心理士は、心の健康という同じ目的を共有しながらも、異なる役割を担っているため、資格取得のための道のりや、将来的なキャリアパスも大きく異なってきます。ここでは、産業医と公認心理士、それぞれの資格取得とキャリアパスについて詳しく見ていきましょう。

産業医になるための必要な資格と条件

産業医になるためには、まず医師免許を取得する必要があります。医師免許を取得するには、6年間の医学部での勉強を経て、医師国家試験に合格しなければなりません。これは、小学校から高校までと同じくらいの期間、みっちり勉強しなければならない、とても長い道のりです。医師免許を取得した後、約2年間の初期臨床研修を受け、その後、産業医研修を修了することで、晴れて産業医として働くことができるようになります。

産業医研修は、産業医科大学をはじめ集中講習として行われることが多いですが、医師会などが主催する研修会に参加して少しずつ単位を集める方法もあります。研修では、労働医学や産業保健に関する専門知識や、職場環境におけるメンタルヘルス対策、過重労働対策など、働く人の健康を守るための実践的なスキルを習得します。

産業医は、企業と雇用契約を結んで働く医師なので、企業の規模や業種によって、求められる専門知識や経験も異なってきます。例えば、製造業では、工場内での事故や労働災害の予防に関する知識が求められますし、IT企業では、長時間労働や精神的なストレスによる健康障害の予防に関する知識が特に求められます。

公認心理士になるための条件と資格

公認心理士になるためには、大学で心理学を専攻し、指定された科目を修得した上で、公認心理士資格試験に合格する必要があります。

心理学は、人の心や行動を科学的に理解することを目的とした学問です。大学では、心理学の基礎知識から、発達心理学、社会心理学、公認心理学など、様々な分野について学びます。

資格試験に合格するためには、大学卒業後、大学院に進学し、1年以上の実務経験を積みながら、専門的な知識やスキルを深めていく必要がある場合が多いです。大学院では、より専門的な研究活動を行いながら、心理検査や心理療法の技術を磨きます。

公認心理士は、医療、教育、福祉など、幅広い分野で活躍することができます。活躍の場は、病院やクリニック、教育機関、相談機関など、実にさまざまです。

まとめ

産業医と公認心理士は、共に働く人の心身の健康を守る専門職ですが、役割と仕事内容は異なります。産業医は会社全体の健康管理、特に労働環境や安全衛生面での対策を専門とする医師です。一方、公認心理士は、従業員個々の心の問題に寄り添い、カウンセリングや心理療法を通して解決をサポートする専門家です。

産業医は、健康診断の実施、労働環境改善の提案、メンタルヘルス不調者のサポートなどを行い、会社全体の健康を守る役割を担います。

一方、公認心理士は、従業員のカウンセリング、心理検査の実施、心の病気を抱える従業員の治療などを行い、個々の心の問題解決を支援します。

産業医と公認心理士は、それぞれの専門性を活かし、連携することで、より効果的なメンタルヘルス対策を行うことができます。

参考文献