「産業医から指示書をもらえますか?」「意見書と指示書は何が違うんですか?」——産業医に関わる人事担当者から、こんな質問が届くことがあります。
結論から言います。産業医が出すのは「意見書」であり、「指示書」は原則として出しません。これは産業医の立場と役割に関わる、根本的な話です。
この記事では、産業医がなぜ指示書を出さないのか、その理由と産業医が実際に発行する文書の種類を整理します。
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産業医の立場は「アドバイザリー」

産業医は職場に対して、健康上の観点から「助言・指導」を行う立場です。会社の事業活動に命令を下す権限はなく、あくまでも専門家としての意見を伝える役割です。
そのため、産業医が行うのは「この人はこのように働くべきだ」という意見(オピニオン)の提示であり、「こうしなさい」という指示(インストラクション)ではありません。意見書という名前がついているのも、この立場を反映しています。
産業医が「指示書」を出さない理由

なぜ産業医は指示書を出さないのでしょうか。その理由は、指示と事業活動の衝突にあります。
もし産業医が「指示書」を発行したとすると、会社はその指示に従わざるを得ないという構図になります。しかし産業医は、職場の事業内容・人員配置・経営状況をすべて把握しているわけではありません。医学的に正しい指示でも、事業活動として現実的でないケースは十分にありえます。
健康だけを重視しすぎて事業活動を無視することは、企業にとっても社会にとっても良くない。産業医の役割は「健康と事業のバランスを保つための意見を提供すること」であり、事業の指揮命令系統の外に置かれているのが正しい立て付けです。
病院の中では「指示書」が日常的に使われますが、それは診療チーム内での医師の指示系統の話です。産業医は会社という組織の中で動く以上、その指揮命令系統の外側に立つ専門家として意見を述べるのが正しい立場です。
「指示のように聞こえる言葉」と「指示書」は別物

産業医との面談や連絡の中で、「すぐに受診してください」「検査結果を送ってください」といった言葉が使われることはあります。これは指示書とは異なります。
たとえば、糖尿病の従業員に対して次のようなコミュニケーションをすることがあります。
- 「すぐに医療機関を受診してください」
- 「受診が終わったら、本人の同意を得たうえで検査結果を共有してください」
- 「次回の面談までにこの確認事項を整理しておいてください」
これらの言葉は指示のように聞こえますが、法的な指揮命令系統に基づくものではありません。「こうするといいから、こうしてほしい」という、専門家としての強い推薦・助言です。指示書という形式の文書として発行されるわけではなく、コミュニケーションの中で伝えられるものです。
産業医が発行する文書の種類

産業医が実際に発行・作成する文書には、意見書以外にもいくつかの種類があります。
①意見書(個人向け)
就業制限・復職判定・健康診断事後措置など、個人の就業上の措置に関して産業医が意見を述べる文書。産業医が出す文書の中心的な位置づけです。
②職場巡視報告書
産業医は月1回(または2ヶ月に1回)職場巡視を行い、その結果を巡視報告書にまとめます。労基署からの提出を求められる場合もあるため、巡視の記録として残さなければなりません。
③面談・訪問報告書
産業医面談や職場訪問の内容をまとめた記録です。法定義務ではない場合もありますが、実務上のエビデンスとして残しておくことが推奨されます。
④勧告書(特別な場合のみ)
会社の対応に重大な問題があり、通常の意見では伝わらないと判断した場合に限り、産業医は勧告書を発行できます(労安衛法第13条第5項)。これは産業医が出せる最も強い文書であり、日常的に使われるものではありません。
| 文書の種類 | 発行頻度 | 法的根拠 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 意見書(個人向け) | 面談・事後措置ごと | 就業制限・復職判定の根拠 | 個人 |
| 巡視報告書 | 月1回または2ヶ月に1回 | 記録なしで労基署の指摘可能性 | 職場環境 |
| 面談・訪問報告書 | 面談・訪問ごと | 義務規定なし(実務上推奨) | 活動記録 |
| 勧告書 | 特別な場合のみ | 労安衛法第13条第5項 | 会社の方針 |
| 指示書 | — | 産業医は原則発行しない | — |
「意見書ベース」で考えることが産業医活用の基本

産業医との関係において、すべての文書・記録の基本は「意見書」です。産業医は事業活動の外側から健康の専門家として意見を提供し、最終的な就業上の判断と措置は会社が行います。
「指示してもらえれば楽なのに」と思う人事担当者もいるかもしれません。しかし、指示ではなく意見という形をとることで、会社は状況に応じた柔軟な判断ができます。産業医の意見はあくまで判断材料であり、それをどう活かすかが会社の責任です。
産業医が「意見書」を出し、会社がそれを受けて「就業上の措置」を決める——この2ステップの構造が、職場の健康管理の基本的な仕組みです。この関係性を理解しておくことが、産業医との適切な連携につながります。
まとめ
- 産業医は「意見書」を発行するのが基本。「指示書」は原則として出さない
- 産業医はアドバイザリーの立場であり、会社の指揮命令系統の外側に立つ
- 「受診してください」などの強い表現も、法的な指示ではなく専門家としての助言
- 産業医が出す文書は、意見書・巡視報告書・面談報告書・勧告書(特別な場合のみ)
- 就業上の措置の最終判断は会社が行う——産業医の意見書はその判断材料
「意見」と「指示」の違いを理解しておくことが、産業医との建設的な連携の第一歩です。
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