産業医の派遣は可能?医師派遣は違法だが大丈夫?
「産業医って、会社にいる医者でしょ? でも、派遣ってどういうこと?」
あなたは、そんな疑問を抱いたことはありませんか?医師の派遣は法律で原則禁止されているため、「産業医の派遣って合法なの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
実は、一般に使われている「産業医の派遣」という言葉は派遣会社から労働者派遣として産業医が派遣されているわけではないのです。
この記事では、”産業医派遣”や”産業医契約”の仕組みと、法律的な側面について詳しく解説します。
あなたの会社の、産業医契約が上手にできているかどうか、ぜひこの記事を読んで確認してみてください。
産業医派遣の仕組みと法律的な側面
前述したようにいわゆる産業医派遣というものは法律上NGとされています。
ここでいう産業医派遣とは人材紹介会社や人材派遣会社がサービスの一環として産業医を紹介し、企業と産業医が直接契約あるい産業保健サービスの一環として産業医の選任を行うケースのことを指すことが多いです。
一般的に「産業医派遣会社」というとイメージがわきやすいため会社の担当者の方は比較的使用することが多いイメージです。
産業医派遣(産業医紹介・仲介)の実際
産業医派遣(=実際は産業医の紹介・仲介)に関してもいくつかのパターンが存在しています。
一つ目は、産業医を実際に紹介し、紹介料を企業から頂くパターンです。このケースでは産業医と企業が直接の契約を交わすパターンが多いです。
二つ目は、産業医紹介会社が産業保健サービスの提供を行い、その内容の中に産業医の選任・業務が含まれるパターンです。
最近の傾向では二つ目のパターンが増えてきている印象です。
パターン②は派遣業のように一見見えますが、あくまで産業保健サービスの提供のために外部の産業医に業務委託をしていますので医師の派遣禁止には当てはまらないので担当者の方はご安心ください。
企業に対する産業保健サービスの一環として支援をうけることができるので、産業医へのサポート・事務作業・ストレスチェックなどが付帯することが多いです。
産業医としての業務には違いはありませんので会社内で契約を行いやすいパターンで行ってもよいでしょう。
医療関連業務における派遣禁止の理由
では、なぜ医師の派遣は原則として禁止されているのでしょうか?それは、医療現場におけるチーム医療の重要性と深く関わっています。
チーム医療とは、医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、それぞれの専門知識や技術を持った複数の医療従事者が、互いに連携・協力しながら、患者さんにとって最良の医療を提供しようとする考え方のことです。
他の医療従事者と、普段からコミュニケーションを取って信頼関係を築けていない場合、連携がうまくいかず、患者さんの安全を脅かしてしまうかもしれません。 この場合、医療の質の低下に繋がりかねず、患者さんにとって大きなリスクとなります。 このような事態を防ぐために、医療現場におけるチーム医療の継続性を重視し、医師の派遣は原則として禁止されているのです。
産業医との契約における注意点
本章で解説を行ったように産業医契約の主体がどこに存在しているか確認することが重要です。産業医本人が契約の主体か?あるいは産業医紹介会社が主体かによって相談の問い合わせ先なども変わっていきます。
また、契約内容をしっかりと確認することが重要です。具体的には、業務内容、勤務時間、報酬、契約期間などを明確にしておく必要があります。
産業医の専門分野や経験についても確認しておきましょう。
例えば、従業員にメンタルヘルスの問題を抱えている人が多い場合は、すべての産業医にメンタルヘルス対応の素養があるとはいえメンタルヘルスの経験を有した産業医を選ぶことが重要になります。
信頼関係を築き、産業医と協力して、従業員の健康管理に取り組んでいきましょう。
産業医紹介活用のメリットとデメリット
産業医を紹介会社を経由して選任することにはメリットとデメリットが存在しています。
近年直接紹介するケースは少なくなってきており産業医紹介企業の産業保健サービスを活用するパターンのメリットとデメリットを紹介していきます。
産業医紹介を受けるメリット
メリットとしては大手株式会社が運営しているためシステム化が非常に進んでいる点です。独自のソフトウェアを開発している企業もあり面談の記録や健診データの取り回しが便利なこともあります。
また、非常に多くの産業医が登録しているケースが多いため、職場や担当者に合った医師をマッチングすることができる可能性が高いと言えるでしょう。
さらに、ストレスチェックなども合わせて契約することも可能ですので担当者の煩雑な業務が緩和されるケースも多いです。
産業医紹介を受けるデメリット
デメリットとしてはやはり大手企業がシステム化を行い運営を行っていることす。
産業医一人一人の個性・持ち味が出にくくなるケースを耳にします。紹介企業の担当者と産業医は二人三脚で活動することが多いですが、どうしても小回りが利きにくくなることもあるようです。
企業側にとってのコストと負担
産業医の先生にお願いすると、当然ですが費用が発生します。 紹介の契約だと年収の30%ほどの費用を紹介会社に支払うケースが多いようです。一方で産業保健サービスの一環として産業保健サービス提供者と契約を行った場合は紹介料も含めて一連の報酬内で計算される傾向にあります。
サービス報酬の中で企業の運営費用・産業医への報酬・利益などがひとまとめに計算されるイメージです。
費用に関しては企業の業種や全体規模や人数によって計算されます。日本橋医師会や愛知県医師会の報酬などを基準にすることが多いですので参考に確認してみましょう。
参考:日本橋医師会産業医報酬topic_file32_1460600097.pdf (nihonbashi-med.com)
参考:愛知県医師会産業医報酬syokutaku.pdf (med.or.jp)
参考:札幌産業医協議会嘱託産業医標準料金表嘱託産業医標準料金表 (sapporo-sanpo.com)
また参考として個人の産業医と契約するメリットが書かれた記事も一読いただければ幸いです。
産業医紹介の具体的な実例と選び方
「産業医って実際にはどんなことをしてくれるの?」「紹介会社と言っても、どんな会社を選べばいいか分からない…」 そんな疑問をお持ちのあなたへ。ここでは、産業医の具体的な実例や、業者選びのポイントをご紹介します。
成功事例に学ぶ産業医の効果
実際に産業医を導入して、職場環境がどのように改善されるでしょうか? いくつか例を挙げてみます。
例1:従業員のストレス軽減
あるIT企業では、長時間労働や厳しい納期による従業員のストレス増加が課題でした。 そこで、産業医を導入し、月に一度の健康相談やストレスチェックを実施しました。 産業医のアドバイスをもとに、残業時間の削減やリフレッシュスペースの設置など、職場環境の改善に取り組みました。 その結果、従業員のストレスレベルが低下し、集中力や生産性の向上が見られました。
例2:メンタルヘルス対策
製造業の会社では、従業員のメンタルヘルス不調による休職者が増加していました。 産業医を導入し、従業員向けにメンタルヘルスのセミナーを開催したり、相談しやすい雰囲気づくりをアドバイスしてもらったりしました。 その結果、早期発見・早期対応が可能となり、休職者の減少につながりました。
例3:健康経営への取り組み
従業員の健康を経営資源として捉え、戦略的に取り組む「健康経営」が注目されています。 産業医を導入することで、健康経営の専門家である産業医から、健康施策に関するアドバイスやサポートを受けることができます。 健康経営の取り組みが評価され、企業イメージの向上や優秀な人材の確保に成功した企業もあります。
産業医紹介業者選定のポイント
産業医派遣業者は数多く存在し、それぞれ特徴が異なります。 自分に合った業者を選ぶことが重要です。 ここでは、現役産業医が考える業者選定のポイントを5つご紹介します。
- 専門分野: 自分の会社で特に力を入れている健康管理の分野に強い産業医がいる業者を選びましょう。会社の課題に合った専門知識を持つ産業医を選ぶことが大切です。多くの産業医紹介事業者は多数の専門性を持った産業医の登録があることが多いです。
- 料金体系: 業者によって料金体系は異なります。基本料金や訪問回数、オプションサービスなどの内訳をよく確認しましょう。
- 対応エリア: 産業医は職場訪問が義務化されているため、対応エリアが会社所在地までカバーされているか確認しましょう。選任される医師が登録されていない紹介事業者の活用は選任期間に間に合わない可能性があります。
- 実績・経験: 特に、自社と同じような規模や業種の企業への産業医提供実績が豊富だと、より的確なアドバイスを期待できます。
- コミュニケーション: 産業医との相性が、働きやすい職場環境づくりには欠かせません。面談などを実施し、コミュニケーションの取りやすさも確認しましょう。 仲介事業者の担当者は産業医と二人三脚で活動することが多いため担当者の人柄も確認しておきましょう。
まとめ
産業医派遣は事実上許可されていません。現在の産業医紹介は①産業医を紹介して直接企業と契約させる②産業医を含んだ産業保健サービスとして提供を行うことがほとんどです。
紹介会社も非常に増えてきているので、複数社相談を行ったうえで職場を任せることができると確信できる産業医紹介会社及び産業医との契約をお勧めします。
また、紹介会社の選び方においても専門分野、料金体系、対応エリア、実績・経験、コミュニケーションの観点から業者を選定することが重要です。情報をしっかり集めて職場の健康管理を安心して進めていただければ幸いです。
参考文献
- 労働者派遣法
- 労働安全衛生法