EAP(従業員支援プログラム)は、従業員の心身の健康を支援し、職場のパフォーマンス向上を目指すプログラムです。
元々は、アルコール依存や薬物依存に対する、従業員の生産性対策としてアメリカで実施された制度であり、日本でも導入する企業が増えてきました。
日本では、メンタルヘルスケアを中心に、キャリア支援やコンプライアンスなど幅広い分野をカバーし、従業員と組織の課題解決を支援する取り組みです。
この記事では、EAPの定義や企業に必要な理由、導入のメリットなどを詳しく解説します。
EAP導入を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
EAP(従業員支援プログラム) とは
EAPは、Employee Assistance Programの略称で、心理学や行動科学の視点から、従業員と組織に対して課題解決策を提供するプログラムです。
日本では、従業員のメンタルヘルス対策として精神的・身体的不調のケアを行うものであり、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に位置付けられています。
EAPには、内部EAPと外部EAPの2種類があります。内部EAPは、企業内に産業カウンセラーを常駐させ、会社内部で体制を構築することが特徴です。
一方、外部EAPは会社の外部に委託する方法であり、内部EAPよりも導入コストを抑えられます。
主なサポート内容は、以下のとおりです。
- ストレスチェック
- カウンセリングや相談窓口の設置(対面・電話・メール)
- 健康に関する教育や研修
- 人事担当者へのコンサルティング
- 復職支援プログラム
EAPは従業員個人だけでなく、その家族の精神支援も行うのが一般的です。従業員がいつでも、気軽に利用できる相談窓口として機能します。
参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
企業にEAP(従業員支援プログラム) が必要な理由
企業にEAPが必要な理由として、EAOが求められている背景や目的、メンタルヘルスケアに重要な「4つのケア」の観点から見ていきましょう。
EAPが求められている背景
元々はアメリカで導入されていた制度であり、アルコール依存や薬物依存に対する、従業員の生産性低下の対策として実施された取り組みです。
日本では、人口の減少による人手不足で従業員に負担な負担がかかり、メンタルヘルスの問題を抱えている人が増加しています。
また、社会問題として、長時間労働による過労死問題、職場内のストレスによるうつ病患者の増加などが問題視されています。
このような背景から、従業員の健康管理が企業の重要な責務となり、日本でもEAPが求められるようになったのでしょう。
EAPの目的
EAPは、従業員のメンタルヘルスケア対策の取り組みとして、必要な相談窓口を設置し、生産性低下を予防するために導入されます。
主な目的は、以下の通りです。
- 従業員の心身の健康改善
- 仕事のパフォーマンス向上
- 職場内トラブルの減少
- 休職や労災、過労死の防止
- 企業経営への好影響
従業員個人だけではなく、企業全体のヘルスケア課題を解決するためのプログラムとして、企業にとって導入すべき制度といえるでしょう。
メンタルヘルスケアに重要な「4つのケア」
企業のメンタルヘルスケアにおいては、以下の4つのケアを継続的かつ計画的に実施していることが重要です。
- セルフケア:従業員自身によるストレス管理
- ラインによるケア:管理職による部下のケア
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 事業場外部資源によるケア:EAPなどの外部専門家によるサポート
セルフケアは、従業員が自分の心身の変化に気づき、ストレスと向き合って適切な対処方法を取る行動のことです。これを実現するためには、企業は従業員向けの研修を実施することが大切です。
ラインケアは、管理者や上司が部下の変化を察知して、相談の機会を設けることや支援体制を整えることです。実施するためにも、普段からのコミュニケーションが重要になります。
事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、メンタルヘルス対策の社内担当者が従業員に適切な支援を提供することです。
そして、事業場外部資源によるケアは、メンタルヘルス対策の支援を社外の専門家に依頼することです。
このように、企業は4つのケアによって従業員の心身の健康を支援します。
企業がEAP(従業員支援プログラム) を導入するメリット
企業がEAPを導入するメリットは、主に以下の4つです。
- 従業員の離職リスク低減
- 経営の安定
- 企業全体の人間関係が円滑
- 企業としてのブランディング
それぞれ詳しく解説します。
従業員の離職リスク低減
EAPの導入により、従業員の心身の不調を早期に発見し対策できるため、離職リスクが大幅に低減する点は大きなメリットです。
気軽に相談できる窓口の設置によって、ストレスを一人で抱え込まずに済み、うつ病や適応障害の発症を防ぐことも可能になります。
また、上司が適切なヒアリング方法を学ぶことで、業務量の調整など最適な改善策を提案できます。その結果、無断欠勤や遅刻者を軽減したり、過重労働や長時間勤務に対する適切な対応を実施できたりするでしょう。
経営の安定
EAPの導入は、従業員の健康状態の管理を容易にし、一人ひとりに合わせた効果的なメンタルヘルスケアを可能にします。
これにより、社員のモチベーションと作業効率が向上し、会社全体の生産性アップが実現できるでしょう。
また、休職者や退職者の減少により、採用・教育コストが削減され、経営の長期的な安定につながります。
企業全体の人間関係が円滑
EAPを通じて従業員のストレス緩和や問題解決が可能になると、本来の業務に集中できるだけでなく、周囲を見渡せる余裕が生まれます。
その結果、部署内外のフォローや連携などの円滑なコミュニケーションが実現でき、職場全体の士気が向上します。
また、セルフケアやアンガーマネジメントの習得により、チームワークが向上し、自身の心身の不調も減少することが期待できるでしょう。
企業としてブランディング
EAPの導入は、企業の社会的責任(CSR)として従業員のメンタルヘルスケア対策に取り組む姿勢を示すことになり、企業ブランディングの向上につながります。
これにより、顧客満足度が向上し、取引先や株主からの支持も得られやすくなるでしょう。
さらに、EAPを含むCSR活動に積極的に取り組む企業は、優秀な人材から選ばれやすくなり、採用活動もスムーズになることが期待できます。
従業員がEAP(従業員支援プログラム)を利用するメリット
従業員がEAPを導入するメリットは、主に以下の3つです。
- 誰にも知られずに相談できる
- 専門的なアドバイスをもらえる
- 生産性やパフォーマンスが上がる
それぞれ詳しく解説します。
誰にも知られずに相談できる
EAPは匿名性が高く、プライバシーが厳重に守られるため、従業員は安心して相談できます。
社内の人間関係や上司との問題など、直接相談しづらい悩みでも、第三者の立場にある専門家に打ち明けられるのは大きなメリットです。
厚生労働省の調査によると、職業生活でストレス等を感じる労働者の割合は、平成27年で55.7%にも上ります。
EAPを通じて、社内に知られることなく悩みを解決できるため、ストレスの軽減や問題の早期解決につながるでしょう。
専門的なアドバイスをもらえる
EAPには、医師、公認心理士、精神保健福祉士、保健師、社会保険労務士、産業カウンセラーなどの専門家が在籍しています。
これらの専門家から、メンタルヘルス、キャリア、健康管理など、幅広い分野について専門的なアドバイスを受けられる点はEAPの大きな特徴です。
心理学や行動科学の観点から、個々の状況に応じた適切な解決策が提案されるため、効果的な問題解決が可能になります。
生産性やパフォーマンスが上がる
EAPを利用することで、従業員は仕事や私生活でのストレスや不安を軽減できる点は大きなメリットです。専門家のサポートを受けながら、自分に合ったストレス対処法を見つけられると、メンタルヘルス不調が改善されます。
その結果、集中力が高まり、ミスが減少し、本来の能力を発揮できるようになります。また、ワークライフバランスの改善にも役立つため、仕事と私生活の両立が図れ、総合的な生産性とパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。
EAP(従業員支援プログラム)導入における5つのポイント
企業にEAPを導入する場合、サービスの効果を最大限に引き上げるためにも事前に確認しておくと良いポイントがあります。
主に、以下の5つのポイントです。
・従業員に導入の周知を徹底する
・社内全体でメンタルヘルスケアへの意識を高める取り組みを行う
・専門家が在籍している・幅広いサービスに対応しているEAPを選ぶ
・個人情報を適切に取り扱っているEAPサービスを選ぶ
・定期的に導入の効果を測定する
それぞれ詳しく解説します。
従業員に導入の周知を徹底する
EAP導入の効果を最大化するには、全従業員への周知が不可欠です。
利用方法や相談窓口などをわかりやすく説明し、社内イントラネットやメール、ポスターなどを活用して情報を発信しましょう。
また、定期的に説明会を開催し、EAPの利点や匿名性の高さを強調することで、従業員の利用を促進できます。特に、管理職への周知徹底は、部下への適切なサポートにつながります。
社内全体でメンタルヘルスケアへの意識を高める取り組みを行う
メンタルヘルスケアの重要性を社内に浸透させるため、定期的な研修やセミナーを実施しましょう。
ストレスマネジメントやセルフケアの方法、メンタルヘルス不調の早期発見など、実践的な内容を取り入れることが効果的です。
また、ストレスチェックの実施や結果のフィードバックを通じて、従業員の自己理解を促進し、メンタルヘルスケアへの意識を高めることも大切な取り組みです。
専門家が在籍している・幅広いサービスに対応しているEAPを選ぶ
効果的なEAPサービスを選択するには、公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラーなどの専門家が在籍していることが重要なポイントです。
また、メンタルヘルスだけでなく、キャリア相談、健康管理など、幅広いサービスに対応しているEAPを選びましょう。これにより、従業員の多様なニーズに応えられ、総合的な支援が可能になります。
個人情報を適切に取り扱っているEAPサービスを選ぶ
EAPサービスでは、従業員のプライバシー保護が重要です。個人情報保護法を遵守し、適切な安全管理措置を講じているEAPサービスを選択しましょう。
具体的には、プライバシーマークの取得や、個人情報保護方針の明確化、相談内容の秘密保持などを確認します。従業員が安心して利用できる環境を整えることで、EAPの効果を最大化できるでしょう。
定期的に導入の効果を測定する
EAP導入後は、定期的に効果を測定し、必要に応じて改善策に取り組むことが重要です。
主な効果測定の指標には、従業員のストレスレベルの変化、離職率の変化、生産性の変化、従業員満足度の変化などがあります。
これらの指標を定期的にモニタリングし、EAPの利用状況や満足度調査と併せて分析することで、より効果的なEAP運用につなげることができます。
EAP(従業員支援プログラム)導入によって企業全体の健康意識を高めましょう
EAPの導入は、従業員の健康と企業の生産性向上の両立を可能にします。メンタルヘルスケアを重視し、従業員と組織の課題解決を支援するEAPを活用することで、健康で活力ある職場環境を築くことができるでしょう。
社内のメンタルヘルス対策を強化したい企業の担当者は、EAPの導入を検討してみてください。