産業医が健康診断結果の結果を見る意味は?法的観点と実務的観点を説明します。

産業医が健康診断結果の結果を見る意味は?法的観点と実務的観点を説明します。

日本では、労働安全衛生法や労働契約法によって、会社は従業員の健康を守る義務があります。その一環として行われる健康診断ですが、産業医はあなたの健康状態を多角的に分析し病気の予防やより働きやすい職場環境作りに役立てています。

この記事では産業医が健康診断結果を通して何を見ているのかそしてその結果から何がわかるのかを詳しく解説していきます。

産業医が健康診断結果を見る3つの理由

健康診断の結果は数字や記号が並んでいてなんだか難しくてよくわからない、管理も大変と感じている方も多いのではないでしょうか?

でも、安心してください。産業医は皆さんの健康を守るためその結果を様々な角度から見ています。 産業医が注目するポイントを説明していきます。

会社の義務と従業員の健康を守るため

会社には働く人が安全で健康に働けるように職場環境を整える義務があります。これは皆さんが安全で健康に過ごせるように、国が会社に守らせていることなのです。これを「労働安全衛生法」と言います。

この法律の中で会社は従業員に健康診断を受けさせることが義務付けられています。 例えば工場で粉塵の多い場所で働いていると、肺の病気になってしまう危険性があります。健康診断で早期に発見し治療や環境改善を行うことで健康を守ることができるのです。

産業医は、この法律に基づいて、会社が従業員の健康を守るためのサポートをしています。 健康診断の結果、従業員に健康上の問題が見つかった場合、産業医は会社に対して従業員がより働きやすいように仕事内容や労働時間の変更などを提案します

例えば、健康診断で貧血と診断された従業員の方に対して、鉄剤の処方を行うとともに残業を減らす重い荷物を運ぶ作業を減らすなど会社と相談の上業務内容を調整します。

就業判定とその後の措置に関しては労働安全衛生法66条に明記されています。健康診断後の医師による意見聴取(産業医の就業判定に相当)はすべての会社・事業所で義務とされていますので対応の徹底をお願いいたします。

健康診断の結果から労働災害を予防するため

健康診断の結果から、働く人がどんな病気にかかりやすいのか、どんなことに注意が必要なのかがわかります。

産業医はその結果を分析して働く人が仕事中に病気になったりケガをしたりすることを防ぐために会社にアドバイスをしています。

例えば健康診断で多くの従業員が高血圧と診断された場合産業医は会社に対して塩分控えめの食事を提供する社員食堂のメニューに変えたり、血圧を下げるための運動を推奨したりするなどの対策を提案します。

高血圧は自覚症状がない場合も多い病気ですが、放置すると脳出血や心筋梗塞といった、命に関わる病気のリスクを高めます。 健康診断の結果から、従業員が重篤な病気にならないように、予防のための対策を立てることも、産業医の大切な仕事です。

健康的な職場環境を作るため

産業医の健康診断の結果だけでなく職場環境の調査も行い働く人にとってより健康で働きやすい職場環境を作るための提案を行います。

例えば健康診断の結果多くの従業員が肩こりや腰痛を訴えている場合産業医は実際に職場を巡視して従業員の作業姿勢や机・椅子の高さなどをチェックし改善点があれば会社にアドバイスを行います。

また、メンタルヘルスの不調を訴える従業員が多い場合はストレスの原因となる職場環境の問題点や長時間労働などを特定し、職場環境の改善や、相談しやすい体制作りなどを提案します。

単に健康診断の結果を見るだけでなく、実際に職場環境を自分の目で見て改善点を提案することで、より働きやすい環境を作ることができるのです。

健康診断結果からわかること、わからないこと

健康診断の結果を受け取るとたくさんの数字や記号が並んでいて一体何が書いてあるのか戸惑ってしまう方もいるかもしれません。

健康診断は皆さんの身体が今どんな状態でこれからどんな病気にかかりやすいかを知るための大切な手がかりとなります。

法律で定められた健康診断項目

健康診断には、法律で定められた項目があります。これは皆さんが健康に働くことができるように国が会社に義務付けているもので、「労働安全衛生法」という法律に書かれています。

身長や体重、血圧測定といった基本的な項目に加え、血液検査や尿検査なども行われます。血液検査では、貧血の有無、肝臓や腎臓がきちんと働いているか、血糖値やコレステロール値は適切かなどを調べます。尿検査では、糖尿病や腎臓病のサインがないかなどをチェックします。

健康診断でわかる病気のリスク

健康診断を受ける大きな目的の一つに、病気の早期発見・予防があります。健康診断の結果から将来的にどんな病気にかかりやすいかどんなリスクを抱えているのかを知ることができるのです。

例えば、健康診断で特に注目されるのが、生活習慣病です。糖尿病、高血圧、脂質異常症などが、この生活習慣病に含まれます。これらの病気は自覚症状が出にくいことが多く気づかないうちに進行してしまうことも少なくありません。

しかし、健康診断を定期的に受けることで、これらの病気の兆候を早期に発見し、適切な対策を講じることができるのです。

例えば、血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つきやすくなり、糖尿病のリスクが高まります。また、血圧が高い状態が続くと、血管に常に負担がかかり、動脈硬化が進んでしまいます。動脈硬化は、血管の老化現象のようなもので、血管が硬くなって弾力性を失ってしまう状態です。

動脈硬化が進むと、血管が詰まりやすくなったり、破れやすくなったりするため、脳卒中や心筋梗塞といった命に関わる病気を引き起こす可能性が高まります。

健康診断だけではわからないこと

健康診断は私たちの健康状態を知る上でとても役に立つものですが、健康診断だけで全てがわかるわけではありません。

例えば、健康診断では、心の状態まではわかりません。最近、気分が落ち込むことが多いイライラしやすいなかなか眠れないといった症状がある場合それは心のSOSかもしれません。心の不調は、身体の病気と同じように、早期発見・早期治療が大切です。

また、健康診断の結果が全て正常範囲内だったとしても、絶対に安心というわけではありません。健康診断は、あくまでもその時点での体の状態を調べるものです。健康診断後も体の変化に注意を払い気になる症状があれば早めに医療機関を受診することが大切です。

例えば、健康診断で異常が見つからなかったとしても、食生活の乱れや運動不足が続けば、後日、病気になってしまう可能性もあります。健康診断の結果は、

あくまで健康状態を維持するための目安として捉え、日々の生活習慣にも気を配ることが重要です。

健康診断結果で気になる場合の相談先

健康診断の結果を受け取ると、数字や記号が並んでいるのを見て、「あれ?この数値って…?ちょっと心配だな…」と感じることもあるかもしれません。特に、健康診断の結果は、正常か異常かの二択で書かれているわけではなく、「基準値」と自分の数値を比べて、その範囲に入っているかどうかを判断しなければなりません。

例えば、肝臓の数値であるALT(GPT)は、基準値が5~40 IU/Lとされています。しかし、この基準値はあくまでも目安であり、この範囲内を超えたからといって直ちに症状が現れることはあまり多くありません。多くは長い時間をかけて悪い病気に発展していきます。

また、健康診断の結果は、あくまでその時点での体の状態を表しているに過ぎません。健康診断を受けた後でも、生活習慣によっては、数値が悪化してしまうことも十分にあり得ます。

健康診断の結果について、少しでも気になることや不安なことがあれば、一人で抱え込まずに、専門家に相談するようにしましょう。相談できる窓口はいくつかありますので、ご紹介します。

産業医へ相談

産業医は、みなさんが働く職場の健康を守る医師です。健康診断の結果を見て、気になることや、仕事との関係で不安なことを相談できます。

例えば、健康診断で血圧が高いと指摘された場合、「仕事でストレスが多いからかな?」「どんなことに気をつけたらいいんだろう?」といった疑問を相談してみましょう。産業医は、みなさんの仕事内容や職場環境も考慮しながら、具体的なアドバイスをしてくれます。仕事の忙しさから生活リズムが乱れている場合などは、働き方を見直すための相談に乗ってくれることもあります。

産業医は労働安全衛生法に基づいて企業が従業員の健康を守るためのサポートをしています。健康診断の結果、従業員に健康上の問題が見つかった場合、産業医は会社に対してその従業員がより働きやすいように仕事内容や労働時間の変更などを提案します。

これは会社にとっても従業員の健康管理リスクを守らせることに繋がります。

医療機関への受診

健康診断の結果によっては、さらに詳しい検査が必要になる場合があります。例えば、健康診断で肝臓の数値が悪かった場合、肝臓を専門的に診てくれる病院を紹介してもらうことができます。医療機関を受診する際は、健康診断の結果を持参しましょう。

医療機関を受診する目安としては、産業医や保健師といった専門家に勧められた時、健康診断の結果で要精密検査、または要医療機関受診と記載されている場合や、自覚症状がある場合です。

まとめ

健康診断の結果は、働く人にとって、自分の健康状態や病気のリスクを知るための重要な手がかりとなります。

また会社にとっては労働者の健康管理を行わせることで安全配慮義務を果たすことに繋がります。 特に医師による健康診断の就業判定を実施しない場合は労基に指導を受けるリスクもありますし、何より労働者が労働災害を被る可能性が高まります。

健康診断の結果に不安を感じたら、産業医や医療機関に相談し、適切な対応をすることが大切です。