「産業医はどこで探せばいいんですか? どんな先生を選べばいいんですか?」——従業員が50人に近づいた会社の人事の方から、必ずいただく質問です。
結論から言うと、探し方は「医師会・紹介会社・健診機関や病院・地域産業保健センター(50人未満)・取引先や知人の紹介(直接契約)」の5つ。いまの主流は紹介会社経由ですが、現役産業医から見た落とし穴は「相談のルートが制限されて、返事が届くまで日数がかかる」ことです。選び方は、科ではなく「会社のことを考えて、産業保健の知識を使ってくれるか」で見ます。実際に精神科出身で高く評価されている例を、精神科医だからこそできる産業保健のインタビューで紹介しています。
この記事では、探し方の5ルートを現役産業医の実感つきで比較したうえで、見つけた候補をどう見極めるか(7つのチェックポイント)、そして「いい産業医とは」への私の答えをお伝えします。
探す前に決めること——いつまでに・何人の産業医が要るか
産業医は、常時50人以上の労働者を使う事業場ごとに選ぶ必要があります(労働安全衛生法 第13条・施行令 第5条)。50人になった日から14日以内に選び、選んだら遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告します(労働安全衛生規則 第13条)。14日は、探し始めてからだと余裕がありません。50人が見えてきた段階で、下の5つのルートに当たり始めてください。
| 常時使用する労働者 | 必要な産業医 | 補足 |
|---|---|---|
| 50人未満 | 選ぶ義務はない(医師などに健康管理を行わせる努力義務・労働安全衛生法 第13条の2) | 地域産業保健センターに無料で相談できる |
| 50〜999人 | 産業医1人(嘱託=非常勤でよい) | 職場巡視は原則毎月1回(条件を満たせば2か月に1回・労働安全衛生規則 第15条) |
| 1,000人以上(暑熱・有害物・深夜業などの業務は500人以上) | その事業場に専属の産業医1人 | 労働安全衛生規則 第13条第1項第3号 |
| 3,000人を超える | 専属の産業医2人以上 | 労働安全衛生規則 第13条第1項第4号 |
人数の数え方と、選んだあとの最初の3か月にやることは産業医の選任|50人の数え方・14日の期限・最初の3か月にまとめています。
探す前に「何をどこまで頼むか」を書き出しておくと、候補の先生との話が早く進みます。項目の一覧は無料PDF『産業医 業務委託契約書 ひな形(全17条)と、締結前の確認事項』の契約書ひな形(全17条・別紙の業務範囲表)にあります。
産業医の探し方——5つのルートと、現役産業医が見た実際

私自身は、企業さんから直接お話をいただいて顧問になることが多いです。ただ、いますごく主流なのは紹介会社経由です。それぞれのルートの特徴と、産業医の側から見た注意点をまとめます。
| 探し方 | 向いている会社 | 費用の目安 | 現役産業医が見た注意点 |
|---|---|---|---|
| ① 医師会に紹介を頼む | 地域の先生に来てほしい会社 | 手数料なし。医師会の目安額(50人未満で月5万円〜)が出発点 | 一度決めると「変えないでほしい」という圧力があることも。地域の先生は診療や経営で忙しく、コミットしてもらえない場合がある |
| ② 産業医紹介会社(紹介サービス) | 手間をかけずに早く決めたい会社 | 手数料込みの月額。紹介会社の取り分は30〜70%ほどが多い | 相談の情報ルートが制限され、返事が届くまで日数がかかる(下で解説)。型どおりの対応になりやすい |
| ③ 健診機関・病院 | 健康診断と一体で頼みたい会社 | 健診契約に上乗せ、または医師会と同程度 | 病院所属の医師は診療が本業。訪問や面談の融通が利くか確認 |
| ④ 地域産業保健センター | 従業員50人未満の会社 | 無料 | 産業医契約ではなく相談窓口。面談は回数に上限があり、繁忙期は予約待ち |
| ⑤ 取引先・知人の紹介(直接契約) | 困ったとき先生本人に相談したい会社 | 手数料なし。先生と直接決める | 探す手間はかかる。「地域に取引のある先生はいませんか」と聞くと、いい人が見つかることが多い |
表の「費用の目安」を自社の人数で確かめたいときは、料金シミュレーターに人数を入れると、法律上の義務と顧問料の目安がその場で分かります(1分・名前やメールの入力なし)。
紹介会社経由のネック——相談が届くまでに4日かかる

紹介会社の手数料は、月額の30〜70%ほどになることが多いです。サービスの対価ではありますが、取り分が多すぎると感じている先生は意外と多く、そう感じて早くやめてしまい、産業医が定着しにくいこともあります。もう1つのネックは、会社が相談するときの情報ルートが制限されることです。手数料の中身や直接契約への切り替えの縛りは産業医紹介会社の比較で詳しく書いています。
会社と産業医が直接契約してしまうと紹介会社にとっては損なので、連絡が制限されることがあります。すると、会社が「こういうことで困っている」と紹介会社に伝え、それが先生に届き、先生の返事を紹介会社が受け取り、会社に届ける——と情報の行き来が多くなります。1つのやり取りに1営業日かかるだけでも、単純に4日かかってしまうわけです。
医師会経由の注意——一度決めると変えにくい
医師会に紹介してもらう場合のポイントは、一度決めてしまうと「変えないでほしい」という圧力があることです。地域の先生は診療や経営で忙しい方が多く、お願いしても結局コミットしてもらえず、顧問料は払っているけれど……という状態になることもあります。専門科より先に「現場に来るか・記録を残すか・緊急時に動くか」で見る考え方は「内科だから」「精神科だから」で産業医を選んでいませんか?で解説しています。産業医を交代するときの手続きは産業医の辞任・解任の報告義務(2026年8月から)を参考にしてください。
私のおすすめ——取引先に「地域に取引のある先生はいませんか」と聞く
直接契約のときの契約書の書き方は産業医契約書の書き方|記載事項・ひな形・印紙の要否、金額の相場観は産業医の報酬相場|月3万円〜の実態と金額で決めない選び方にまとめています。
選ぶときの確認事項は、そのまま契約書の条項になります。無料PDF『産業医 業務委託契約書 ひな形(全17条)と、締結前の確認事項』の締結前チェックリストと合わせてお使いください。
産業医の選び方——候補の先生に確かめる7つのこと
候補の医師をどこで見つけるかは上の「産業医の探し方」で解説しました。ここからは、見つけた候補をどう見極めるかです。
前提として、産業医になれるのは、厚生労働大臣の指定する研修を修了した医師(日本医師会の認定産業医など)や労働衛生コンサルタント(保健衛生)など、法令の要件を満たす医師だけです(労働安全衛生規則 第14条第2項)。要件は契約前に確かめてください。
そのうえで、私が人事の方におすすめしている確認は次の7つです。科(内科か精神科か)は入っていません。
| 確かめること | 聞き方の例 | 見るところ |
|---|---|---|
| ① 現場に来るか | 「うちの職場を見に来てくれますか?月に何回ですか?」 | 「月1回は職場巡視します」と即答できるか。面談だけして現場を見ない先生もいます |
| ② 記録を残すか | 「面談の記録は書面で残してもらえますか?」 | 記録の書式のサンプルがすぐ出てくるか。記録がないと、交代のときに引き継げません |
| ③ 先生本人に連絡できるか | 「困ったとき、先生に直接連絡できますか?」 | 間に紹介会社などを挟むと、返事が届くまで4日かかることがあります |
| ④ 急ぎの返事の速さ | 「急ぎの相談は、いつまでに返事をもらえますか?」 | 「24時間以内に方針を返します」と言えるか |
| ⑤ 先生が対応するのか | 「困ったときは先生が対応しますか、サポートデスクですか?」 | 「サポートデスクで対応します」だけなら、先生に助けてもらえる回数は少ないかもしれません |
| ⑥ 意見書が具体的か | 「就業上の意見は、どんな書き方になりますか?」 | 「残業時間の低減に努めてください」のように、数字も期限もない書き方では人事が動けません |
| ⑦ 顧問料にどこまで入るか | 「面接指導や休職・復職の面談は顧問料に入りますか?」 | 訪問の時間を超えたときなど、追加の費用がかかる条件が書面で出てくるか |
金額は大事ですが、お金の計算だけで決めると失敗しやすくなります。初めて選任するときほど、困ったときにどのくらい対応してもらえるかを確かめ、評判やご紹介も手がかりにしてください。いまの産業医に不満があって見直したいときの見極め方は、産業医が役に立たない?信頼できる産業医を見極める5つのポイントにまとめています。
先生を決めたあとの契約書は、業務の範囲と対象人数を最初に書いておくと後で困りません。全17条のひな形と締結前チェックリストは無料PDF『産業医 業務委託契約書 ひな形(全17条)と、締結前の確認事項』で配布しています。
サンポチャートにご依頼いただく場合の料金と対応内容は、6つのパックの一覧にまとめています(税別・初期費用0円・最低契約期間なし)。
いい産業医とは?現役産業医の答え
人事の方から「いい産業医って、どんな先生ですか」と聞かれることがあります。私の答えはシンプルです。
科は関係ありません。企業のことを考えてくれて、産業保健の知識を活用してくれる先生であれば、それがいい産業医です。
もう少し具体的に言うと、その会社の仕事の内容をよく理解してくれて、一定の時間を使って対応してくれる先生です。どんなに優秀な先生でも、その企業に価値を貢献できなければもったいないです。
そもそも対応する時間がない、会社に来てくれない、職場のことをあまり見てくれない。そうなると、一般的なアドバイスにとどまってしまいます。自社への理解度の高い先生にお願いするのが一番いいと思います。
逆に、避けたいのは次のような先生です。
- 「人事に言われたから書く」という意見書の出し方をする
- 「残業時間の低減に努めてください」のように、数字も期限もない曖昧な意見書を出す(人事が動けません)
上の7つで見ているのも、結局はこの2つです。会社のことを考えているか。産業保健の知識を現場で使えているか。
まとめ:産業医の探し方は5つのルート、選ぶときは7つを確かめる
- 50人になったら14日以内に選任し、遅滞なく労働基準監督署へ報告。1,000人以上は専属
- 探し方は医師会・紹介会社・健診機関・地域産業保健センター(50人未満)・取引先の紹介の5つ。主流は紹介会社経由
- 紹介会社経由は相談ルートが制限され、返事に4日かかることがある。医師会は一度決めると変えにくい
- 取引先に「地域に取引のある先生はいませんか」と聞くと、いい人が見つかることが多い
- 選ぶときは、現場に来るか・記録を残すか・先生本人にすぐ連絡できるか・意見書が具体的かなど7つを確かめる。科では選ばない
参考文献
- 藤野 昭宏. 産業医と倫理 - 産業医に求められる倫理と使命. 産業医制度. 2013;35(Special_Issue):27-34.
- 高橋 信雄. 事業所からみた産業医への期待. 産業医制度. 2010;56(5):414-419.
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よくある質問
Q. 産業医は何人から必要ですか?いつまでに選べばいいですか?
常時50人以上の労働者を使う事業場で必要です(労働安全衛生法 第13条・施行令 第5条)。50人になった日から14日以内に選び、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告します。1,000人以上(暑熱・有害物・深夜業などの業務は500人以上)の事業場は専属の産業医、3,000人を超えると2人以上が必要です(労働安全衛生規則 第13条)。人数の数え方は産業医の選任|50人の数え方・14日の期限にまとめています。
Q. 産業医はどこで探せますか?
地域の医師会、産業医紹介会社、健康診断を頼んでいる健診機関や病院、地域産業保健センター(従業員50人未満・無料の相談窓口)、取引先や知人の紹介(直接契約)の5つが主なルートです。いまの主流は紹介会社経由ですが、取引先に「地域に取引のある先生はいませんか」と聞くと、いい先生が見つかることが多いです。健診機関や病院からの紹介で選ぶ場合の注意点は、産業医は病院の紹介で選んで大丈夫?で解説しています。
Q. 50人未満の会社は、どこに相談すればいいですか?
50人未満の事業場に産業医を選ぶ義務はありませんが、医師などに健康管理を行わせるよう努めることになっています(労働安全衛生法 第13条の2)。地域産業保健センターでは無料で相談できます(産業医の契約ではなく相談窓口で、面談の回数には上限があります)。産業医がいない会社の動き方は産業医がいない会社はどうする?にまとめています。
Q. 産業医は何科の医師に頼めばいいですか?
科は関係ありません。産業医に診療科の決まりはなく、必要なのは医師であることと、厚生労働大臣の指定する研修の修了など法令の要件を満たすことです(労働安全衛生規則 第14条第2項)。科よりも、企業のことを考えてくれるか、産業保健の知識を活用してくれるかで選びます。
Q. 産業医を選ぶ際に確認すべき重要なポイントは何ですか?
現場に来るか(職場巡視の回数)、面談の記録を残すか、困ったとき先生本人に連絡できるか、急ぎの相談に24時間以内に返事が来るか、先生が対応するのかサポートデスクだけか、意見書に数字と期限が入るか、顧問料にどこまで入るか、の7つです。科(内科か精神科か)よりも、この行動で選びます。産業医の報酬相場の調べ方と金額の目安は、産業医の報酬相場はどう調べる?で解説しています。
Q. メンタルヘルスに強い産業医を見つけるにはどうすればよいですか?
精神科の出身かどうかより、休職・復職の面談をどれだけ担当してきたか、急ぎの相談に24時間以内に返事が来るか、紹介会社などを挟まず先生本人に連絡できるかで見てください。メンタルの相談は迅速さが大事です。愛知・名古屋で産業医を探す場合は、愛知・名古屋の独立系産業医事務所9選も参考にしてください。
Q. 産業医紹介会社の手数料は高いですか?
月額の30〜70%ほどが紹介会社の取り分になることが多く、取り分が多すぎると感じている先生は意外と多いです。そう感じた先生が早くやめてしまうと、産業医が定着しません。もう1つ注意したいのが「相談のルートが制限されること」で、会社→紹介会社→医師→紹介会社→会社と情報が行き来するため、1営業日ずつでも返事に4日かかることがあります。メンタルの相談は迅速さが大事なので、先生本人に連絡できる契約かを確認してください。
Q. 医師会に紹介してもらった産業医を変えたいときは?
医師会経由の場合、一度決めると「変えないでほしい」という圧力がかかることがありますが、契約上は解任・変更できます。解任・辞任のときは、その旨と理由を衛生委員会に報告します。2026年8月からは労働基準監督署への報告も義務になったので、交代の理由を整理したうえで、次の先生を決めてから手続きを進めてください。動き出す時期と手順は産業医の変更・交代の手順にまとめています。








