「健康経営を推進したいけれど、どうしたらいいかわからない…」
「健康経営に理学療法士を活用すると、どんなメリットがあるのだろう?」
健康経営の推進にあたって上記のような悩みを抱えていませんか?
中小企業向けの健康経営に関わる補助金のエイジフレンドリー補助金では、2024年に理学療法士や専門職などからの運動指導を受けるコースが新設されました。
しかし、理学療法士という職業のことがよくわからず、活用の仕方に困っている経営者や人事労務担当者の方もいるのではないでしょうか?
本記事では、健康経営における理学療法士を活用する関連性やメリットなどを解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
健康経営の重要性と理学療法士の役割
こちらの見出しでは健康経営の重要性と健康経営における理学療法士の役割を解説していきます。
健康経営とは何か改めて知識を深め、身体や運動の専門家である理学療法士が健康経営に関与することでどんなめえリットがあるのかを詳しく解説します。
健康経営とは何か?
健康経営について、経済産業省では以下のように定義されています。
従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。
(引用元:経済産業省)
つまり、従業員の健康管理にかかる費用をコストと捉えるのではなく、企業に将来利益をもたらしてくれると考え、経営者が戦略を立てて長期的な視点で従業員の健康づくりを実践していくことです。
例えば、ご自身の会社に今現在、健康に問題を抱え、作業効率が低下している業員がいたとします。
その従業員に対して企業側から健康診断の受診をすすめたり、産業保健スタッフによる健康相談を実施したりするなどすることで、健康状態の改善や増進が図られます。
すると作業効率が回復し、企業の生産性向上につながるだけではなく、従業員から企業に対する信頼感や満足感の向上などが期待できるでしょう。
また、企業が健康経営を実践することで、企業だけではなく社会にとっても利益となります。以下に健康経営がもたらす利益に関して、簡単に表にまとめましたので、ご参照ください。
健康経営がもたらす利益の例 | |
---|---|
従業員 | 健康増進 医療費の削減 会社への満足度の向上 病気による休暇の減少 作業効率の向上 QOL向上 |
企業 | 健康保険料の削減 労働災害の減少 障害給付・死亡給付の削減 生産性・業績の向上 離職率の低下 会社のイメージ向上 労働力の確保 |
社会 | 国民医療費の削減 健康で長く働ける社会の実現 |
参考:職場の健康がみえる産業保健の基礎と健康経営 第1版
健康経営と理学療法士の関連性
健康経営に関して医療専門職である理学療法士はどんな関連性があるのでしょう。
理学療法士は病院や介護施設で病気の方に対して、リハビリを行なっているイメージが強い方もいるのではないでしょうか。実際どんな仕事をしているのかよくわからないと感じている方もいると思います。
ここで、理学療法士について詳しく解説します。
理学療法士とは
ケガや病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する医学的リハビリテーションの専門職です。
(引用元:公益社団法人 日本理学療法士協会)
人の身体や動作の専門家である理学療法士は国に認められた資格であり、免許がないと名乗ることができません。
理学療法士の専門性を活かして近年では医療現場にとどまらず、活動の場が拡がっています。
例えば、市民向けに健康増進や生活習慣病の予防に対するアドバイスや体操指導、ロコモティブシンドロームやフレイルなどの予防など予防事業や産業分野での活動が挙げられます。
そのため、産業理学療法士として健康経営推進のために企業に就職したり、個人で活動したりする理学療法士も増加傾向です。
また、国が設けた、健康経営推進のための補助金制度でも理学療法士をはじめとする運動の専門家の活用をすすめています。令和6年度のエイジフレンドリー補助金では、「転倒防止や腰痛予防のためにスポーツ・運動指導コース」が新設されました。
こちらは転倒防止や腰痛予防に対する理学療法士などの専門家による、運動指導や身体機能のチェックが補助金の対象となります。
エイジフレンドリー補助金とは、中小企業が高年齢者やすべての労働者の労働災害を防止するために、設備投資や労働者の健康保持・増進にかかった費用の一部を国が補助する制度のこと。
国の健康経営推進の観点からも、理学療法士と健康経営の関わりがうかがえます。
背景としては、日本が直面している少子高齢化による働き手の減少や増加する医療費が関係しています。
従業員の健康維持・増進をはかり、長く働きつづけてもらうことで、企業の生産性低下や国の税収低下、医療費の増大を防ぐことが重要です。
上記のような背景により、身体や運動、動作の専門家である理学療法士の健康経営における活用が注目されています。
健康経営で理学療法士を活用するメリット
健康経営において、理学療法士を活用するメリットは以下が考えられます。
- 医療専門職である理学療法士による従業員の健康相談や指導が受けられる
- 転倒防止や腰痛予防の対策のアドバイスや運動指導が受けられる
- 健康増進のための知識を従業員向けセミナーなどで教えてもらえる
健康に不安を抱いている従業員や運動不足に悩む従業員の良き相談相手として、医療専門職である理学療法士を活用できると考えられます。
また、転倒防止や腰痛予防のために職場でできる体操や、日頃から気をつけるべきポイントを指導してもらうのも理学療法士の活用法の一つです。
そして、医療や身体の専門家によるセミナーでの知識の伝達やアドバイスは、従業員が自身の健康に目を向ける良い機会になることが期待できます。
【理学療法士の視点から】従業員の健康増進に向けた取り組み方を提案
こちらの見出しでは理学療法士の視点から、従業員の健康増進に向けた取り組み方を提案していきます。
具体的には以下の3つの施策を提案いたします。
- 従業員の健康状態の評価と分析
- 運動プログラムの立案と指導
- 健康増進のためのセミナー開催 それぞれについてみていきましょう。
1.従業員の健康状態の評価と分析
産業医や産業保健師と連携し、健康診断結果などから従業員の健康状態や身体に関する悩みを把握します。その後、デスクワークや労働による肩こりや腰痛などが生じていないか、身体機能の評価・分析を行います。
従業員の身体に生じている問題などを評価・分析した結果をデータ化して可視化することによって、問題を把握し問題解決に向けた対策を講じることができるのです。
2.運動プログラムの立案と指導
従業員それぞれの身体の問題に合わせた運動プログラムを立案し、指導することが健康増進には大切です。
企業で働く従業員は年齢や性別、体格、生活歴、運動歴などそれぞれ違いがあります。抱える身体の悩みも異なるため、個々に合わせた適切な運動プログラムの立案が重要となってきます。
また、運動プログラムは指導してそのままにするのではなく、再評価やフォローアップが重要となります。医療現場で評価から運動プログラムの立案、再評価などを実践している理学療法士としては強みといえるでしょう。
3.健康増進のためのセミナー開催
個々に合わせた運動指導以外にも、従業員全体健康に関する知識を得たり、深めたりすることがとても重要です。
例えば、長時間のデスクワークで肩こりや腰痛が生じるリスクを理解することや、運動不足による健康への影響、生活習慣病のリスクを理解することなどが挙げられます。
上記のような知識を従業員が身につけることで、病気予防の啓発や健康リテラシーの向上につながることが期待できます。 自身の健康に気をつける従業員が増えることで、企業の健康経営推進にもつながるでしょう。
理学療法士による運動指導の導入
こちらの見出しでは、身体に関わる他の専門職ではなく、なぜ理学療法士による運動指導が重要なのかを詳しく解説していきます。
理学療法士による運動指導の重要性
医療国家資格である理学療法士は、養成校にて解剖学や運動学などの身体に関する学問をはじめ、心理学など患者さんへの心理的サポートに関する知識も学びます。
そのため、専門知識に基づいた運動指導を提供できるほか、心理学的な観点からも対象者の話をよく聞き、問題解決に向けた丁寧なサポートが可能です。
従業員の不調改善に向けたサポート
理学療法士の得意分野である、姿勢や動作の評価・分析により従業員の不調改善に向けたサポートができると考えられます。
長時間のデスクワークで肩こりや腰痛などの不調を抱え働く従業員を具体例としてサポートの手順を説明します。
- 従業員の姿勢を適切に評価し、どこに問題があるのか分析する。
- 不良姿勢の改善のために運動指導や環境調整の提案をする。
- 運動や環境調整後の従業員の姿勢を再評価し、最初に訴えていた不調がどうなったかも聴取する。
理学療法士は医療現場でも患者さんに対して、上記のような評価や分析を踏まえた一貫したサポートを行なっています。
健康経営に関わる、産業保健分野でも理学療法士は専門知識を活かした評価を実施し、それぞれの従業員にあった運動指導や環境調整などのサポートができると考えられます。
デスクでできる簡単な運動を紹介
ここで、デスクでできる簡単な運動を紹介していきます。
長時間のデスクワークで、肩や背中の筋肉がこり固まったと感じたときに実施するのがおすすめです。
1.肩回し運動
こちらの運動は肩や肩甲骨に付着する筋肉を動かし、血行促進の効果が期待できます。肩をケガしている方や運動を実施して痛みが増す場は、行わないようにしましょう。
開始姿勢:足の裏を床につけた状態でイスに座ります。背もたれには寄りかからず、猫背にならないように背筋を伸ばして座りましょう。
- 図のように右肩に右手の指先を、左肩に左手の指先をつけます。
- 自然に呼吸をしながら、肘を内側に入れるように肩を5回ほど回していきます。
- つぎに肘を外側に開くように5回ほど肩を回しましょう。
その日の体調やお好みで回数を増やしたり減らしたりしても良いでしょう。
2.わきの下伸ばし運動
こちらの運動は、わきの下付いている筋肉の筋肉をストレッチする効果が期待できます。こちらも身体に不調を抱えている場合は無理に行わないようにしましょう。
開始姿勢:足の裏を床につけた状態でイスに座ります。背もたれには寄りかからず、猫背にならないように背筋を伸ばして座りましょう。
- 図のように右手を頭の後ろにつけ、左手は左わき腹に添えましょう。
- 息を鼻から吸いましょう。
- ゆっくりと息を口から吐きながら、右のわきの下をストレッチするように左方向に身体を傾けていきます。
- 鼻から息を吸いながら元の姿勢に戻りましょう。
- 3回ほど繰り返したら、左右を交換しましょう。
3.おへそのぞき運動
こちらの運動は首や背中に付いている筋肉をストレッチし、血行促進の効果が期待できます。体調が悪い時や首や背中に激しい痛みがある場合は行わないようにしましょう。
開始姿勢:足の裏を床につけた状態でイスに座ります。背もたれには寄りかからず、猫背にならないように背筋を伸ばして座りましょう。
- 図のように両手を合わせて指を組み、肩90度の高さで腕を体の正面でまっすぐ伸ばしましょう。
- 息を鼻から吸ってから、「フー」と口から息を吐きながらおへそをのぞき込むように首や背中を丸めていきましょう。
- 息を吸いながらステップ1の姿勢に戻ります。
- ステップ1〜3の動きを3〜5回繰り返します。
こちらで紹介した体操の注意点として、体の痛みや体調に不安がある場合は企業の産業医や産業保健師、かかりつけ医に相談してから行うようにしましょう。
理学療法士の活用で健康経営の推進へ
健康経営の推進における理学療法士の重要性や必要性は年々増しています。
特に従業員の健康維持・増進のために、専門家の意見を仰ぎたいというときに、理学療法士を活用することがおすすめです。
健康経営に理学療法士の活用を検討している経営者や労務責任者の方は、本記事を参考にしていただければ幸いです。