産業医は49人以下の事業所で必要ですか?現役産業医が解説します。
従業員数50人以上の企業では産業医の選任が義務付けられていますが、49人以下の企業はどうでしょうか?「産業医なんて、うちには関係ない」と思っている経営者の方もいるかもしれません。しかし、従業員数が少ないからこそ、産業医の必要性を感じている経営者も多いはずです。
実際、従業員数が少ない事業所ほど、産業医や安全衛生推進者の選任率、健康診断の受診率、健康診断後の措置が低くなる傾向がある一方で、健康診断で有所見となる率は高くなるというデータがあります。これは、小規模事業所ほど、健康管理や安全対策にまで手が回らない状況があることを示唆しています。
この記事では、49人以下の事業所で産業医が果たす役割と、産業医を雇用することのメリットについて解説します。従業員数が少ないからこそ、産業医の選任を検討するメリットについて、詳しく見ていきましょう。
産業医とはどんな仕事?法令、実務、活用方法に関して徹底解説。
産業医が49人以下の事業所での役割と必要性
従業員数にかかわらず、職場環境の安全と健康を保つことは、企業にとって非常に重要です。特に、中小企業やスタートアップ企業では、限られたリソースの中で、どのように従業員の健康を守り、生産性を向上させていくかが課題となるでしょう。
企業にとって従業員は財産です。「人財」という言葉があるように、企業は従業員によって支えられています。従業員が健康で、かつ意欲的に働ける環境を整備することは、企業の成長に不可欠です。
しかし、人員や予算の都合上、「健康管理にまでリソースを割くのは難しい」と感じている経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
実際に、従業員数が少ない事業所ほど、産業医や安全衛生推進者の選任率、健康診断の受診率、健康診断後の措置が低くなる傾向があります。
一方で、健康診断で有所見となる率は高くなるというデータもあります。これは、小規模事業所ほど、健康管理や安全対策にまで手が回らない状況があることを示唆しています。
このような状況を改善する一つの方法として、産業医の存在があります。
小規模事業での産業医選任義務について
法律上、従業員数が50人以上の事業所には産業医の選任が義務付けられています。では、49人以下の小規模事業場では、産業医は不要なのでしょうか?
従業員数が少ないからこそ、産業医の選任を検討するメリットはたくさんあります。
例えば、従業員が5人しかいない会社を想像してみてください。もし、その中の1人が体調を崩して休職することになったら、会社への影響は甚大です。
小規模事業所であればあるほど、1人1人の従業員が担う役割は大きく、1人の欠員が事業全体に大きな影響を与える可能性があります。
従業員の健康を守ること=事業の安定・成長につながると言っても過言ではありません。
産業医の業務内容と大企業との違い
産業医の主な業務内容は、職場における従業員の健康管理と労働環境の改善です。
具体的には、従業員の健康診断の結果に基づいた健康指導や保健指導、メンタルヘルス対策、過重労働の面談や指導、職場巡視による作業環境の改善提案、衛生委員会への参加、労働災害や通勤災害発生時の対応など、多岐にわたります。
これらの業務は、大企業でも小規模事業所でも基本的には変わりません。
しかし、小規模事業所では、産業医がよりきめ細やかに従業員と関わり、事業所の経営状況や職場環境の実情に合わせた対応をすることが求められます。
例えば、大企業では、産業医は主に健康診断やストレスチェックなどの定期的な業務を担当し、個別の相談対応は産業保健師や看護師などが行うことが多いです。
一方、小規模事業所では、産業医が直接従業員とコミュニケーションを取り、健康上の悩みや仕事のストレスなどの相談に乗る機会が多くなります。
これは、町の診療所をイメージすると分かりやすいかもしれません。
大病院では、それぞれの専門分野に分かれた医師が、それぞれの専門性に特化した診療を行いますが、町の診療所では、医師が患者一人ひとりの状況を把握し、全身を診て、適切な治療やアドバイスを行います。
小規模事業場における産業医も、大企業の場合と比較して、従業員一人ひとりと密接に関わり、よりきめ細やかな対応をすることが求められます。
産業医の雇用がもたらす健康管理の利点
産業医を雇用することで、従業員の健康意識向上と健康管理の促進、メンタルヘルス問題の早期発見・対応、労働災害・通勤災害の予防、健康経営の推進といった利点が期待できます。
定期的な健康診断や健康相談を通じて、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、適切なアドバイスや指導を行うことで、従業員自身の健康意識を高めることができます。
また、ストレスチェックや個別面談などを通じて、従業員のメンタルヘルス状態を把握し、必要に応じて早期に専門医への受診を促すことができます。
さらに、職場環境の改善やストレス対処法の指導など、未然にメンタルヘルス問題を防ぐための取り組みも期待できます。
職場巡視や作業環境測定などを通じて、職場内の危険箇所を洗い出し、改善策を提案することで、労働災害や通勤災害のリスクを低減することもできます。
従業員に対して、安全作業の教育や健康管理の重要性についての啓蒙活動を行うことで、安全意識の向上を図ることも可能です。
このように、産業医は、従業員の健康を守り、働きがいのある職場環境を作る上で、重要な役割を担っています。
特に、49人以下の小規模事業所では、産業医の存在が、従業員の健康管理や労働環境改善を大きく左右すると言っても過言ではありません。
産業医が不要な場合の代替策
49人以下の事業所では、法律で産業医の選任が義務付けられていません。しかし、従業員の健康管理は、企業にとって非常に重要です。従業員が健康でいきいきと働ける環境を作ることは、企業の生産性向上や業績アップにもつながります。
従業員50人未満の事業所では、産業医の選任義務がないため、健康管理をどのように行うか悩む経営者の方もいるかもしれません。このような事業所では、産業保健師の活用や、従業員一人ひとりの自主的な健康管理、そして、職場環境の改善といった取り組みが重要になります。
産業保健師の活用とその効果
産業保健師は、医師である産業医とは異なり、保健指導や健康相談、職場環境の改善提案などを行う専門職です。
例えば、従業員が過労気味で悩んでいたとします。産業保健師は、従業員の話に耳を傾け、休暇の取得を促したり、業務量の調整について上司に相談したりするなど、従業員が安心して働き続けられるようサポートします。
産業保健師は、従業員一人ひとりの健康状態や業務内容を把握し、健康増進のためのアドバイスや生活習慣病予防の指導などを行います。また、メンタルヘルスの問題を抱える従業員に対しては、相談に乗ったり、適切な医療機関への受診を促したりします。
産業保健師は、公衆衛生看護学をベースに、個人と集団、組織という視点から、健康を包括的に支援します。
これは、会社健康相談所のような存在であり、会社の健康課題を把握し、必要なサービスを提供することで、会社全体の健康レベル向上を目指しています。
産業保健師がいることで、従業員が安心して仕事に集中できる環境が整い、企業全体の生産性向上に貢献します。
自主管理による健康維持の具体策
従業員一人ひとりが、自身の健康状態に関心を持ち、健康維持に努めることも大切です。「自分はまだ若いから大丈夫」「忙しいから運動する時間がない」と、健康を後回しにしてしまう人もいるかもしれません。
しかし、健康は、毎日の積み重ねによって維持されるものです。
例えば、毎日階段を使う、1駅分歩くなど、日常生活の中で軽い運動を心がけることから始めてみましょう。
企業は、従業員が自主的に健康管理に取り組めるよう、様々な制度や環境を整備することができます。
例えば、以下のような取り組みが考えられます。
- 健康診断の受診率向上のための啓発活動や、受診しやすい環境づくり
- 運動習慣を促進するための、社内運動施設の設置や運動機会の提供
- 食生活の改善を促す、健康的な食事を提供する社内食堂の設置や、栄養バランスの取れた食事の提供
- メンタルヘルスのセルフケアを促進するための、リフレッシュルームの設置や、相談窓口の設置
これらの取り組みを通じて、従業員の健康意識を高め、健康的な行動を促進することができます。
産業医なしで進める労働環境改善の方法
労働環境の改善は、従業員の健康を守る上で非常に重要です。産業医がいなくても、企業は自ら積極的に労働環境改善に取り組むことができます。
例えば、工場で働く従業員にとって、騒音は大きなストレスとなります。騒音を測定し、防音対策を施すことで、従業員のストレスを軽減することができます。
また、長時間労働は、従業員の心身に悪影響を及ぼします。業務の効率化や休暇取得の推奨などにより、従業員の労働時間を削減し、適切な労働時間管理を行うことが重要です。
以下は、具体的な取り組みの例です。
- 作業環境測定の実施: 粉塵や騒音など、健康に影響を与える可能性のある作業環境の測定を専門業者に依頼し、適切な対策を講じます。
- 長時間労働の削減: 業務の効率化や休暇取得の推奨などにより、従業員の労働時間を削減します。
- 職場環境の改善: 照明や空調設備の改善、休憩スペースの設置など、従業員が快適に過ごせる職場環境づくりに取り組みます。
- ハラスメント防止対策: ハラスメントに関する研修を実施したり、相談窓口を設けるなど、ハラスメントの発生を予防するための対策を講じます。
これらの取り組みは、従業員の健康を守り、働きやすい職場環境を作るだけでなく、労働災害の防止にもつながります。
これらの代替策を組み合わせることで、産業医がいない場合でも、従業員の健康管理を効果的に進めることができます。
産業医雇用のメリットとデメリット
49人以下の事業所では、産業医を雇うべきかどうか、迷うこともあるかと思います。コスト面が気になる一方で、従業員の健康を守ることの重要性も理解していることでしょう。
従業員数が少ないからこそ、健康管理は重要です。従業員一人ひとりが会社にとってかけがえのない戦力であり、1人の体調不良が会社全体に大きな影響を与える可能性があります。
例えば、5人しかいない会社で1人休職してしまうと、残りの4人は普段の1.25倍の業務をこなさなければなりません。これは、まるで、普段4人で運んでいた重たい荷物を、1人減って3人で運ぶようなものです。負担が増えるだけでなく、転倒や怪我のリスクも高まってしまいます。
では、従業員の健康を守るために、具体的にどのような対策を講じれば良いのでしょうか?
その答えの一つとして、産業医の選任があります。
49人以下の事業所が産業医を雇用するメリット
49人以下の事業所では、産業医の選任は法律で義務付けられていません。しかし、従業員数が少ないからこそ、産業医を雇用するメリットはたくさんあります。
大企業では、専属の産業医が職場の管理を一括してシステム的に運用することが多いですが、小規模の事業所では、医師が従業員ひとりの状況を把握し、適切な治療やアドバイスを行います。
小規模事業所における産業医も、大企業の場合と比較して、従業員一人ひとりと密接に関わり、よりきめ細やかな対応をすることが求められます。
具体的には、次のようなメリットがあります。
- 従業員の健康状態を細かく把握し、適切なアドバイスや措置を講じることができる: 健康診断の結果は数値だけで判断するのではなく、従業員一人ひとりの生活習慣や仕事内容を考慮して総合的に判断する必要があります。産業医は、面談や職場巡視などを通して、従業員と直接コミュニケーションを取りながら、より的確な健康アドバイスを行うことができます。
- 健康診断の結果に基づいた、具体的な健康改善策を指導してもらえる: 健康診断で「要経過観察」や「要精密検査」と判定された場合でも、具体的にどのように生活習慣を改善すれば良いのかわからないという従業員もいるでしょう。産業医は、専門的な知識に基づいて、個別の状況に合わせた具体的な健康改善策を指導してくれます。
- メンタルヘルスの問題を抱える従業員への早期対応が可能になる: うつ病などのメンタルヘルス問題は、早期発見・早期治療が重要です。産業医は、従業員の普段の言動や様子から、メンタルヘルスの変化にいち早く気づくことができ、必要に応じて専門医への受診を促すなど、適切な対応を取ることができます。
- 過重労働や長時間労働の防止対策など、労働環境改善のアドバイスを受けられる: 産業医は、職場環境が従業員の健康に与える影響について専門的な知識を持っています。職場巡視などを通して、労働時間管理や作業環境の改善点などを指摘し、より安全で健康的な職場環境を作るためのアドバイスを受けることができます。
これらのメリットにより、従業員の健康維持・増進だけでなく、結果として生産性向上や企業イメージ向上にも繋がることが期待できます。
選任しないことでのデメリットとリスクそしてその対策
産業医を雇用しない場合、以下のようなリスクが考えられます。
- 従業員の健康問題の悪化による、休職者増加や生産性低下: 健康管理を怠ると、従業員の健康状態が悪化し、休職や離職に繋がる可能性があります。特に、中小企業では、人材の不足が深刻化しており、従業員の休職は、業務の遅延や他の従業員の負担増加に繋がりかねません。
- 労働災害発生時の、適切な対応の遅れによる、企業責任の追及: 労働災害が発生した場合、企業は、その原因究明や再発防止策の策定など、適切な対応を取ることが求められます。産業医がいない場合、これらの対応が遅れ、企業責任を問われる可能性があります。
- 健康管理不足による、企業イメージの低下: 健康管理を軽視している企業は、従業員だけでなく、取引先や顧客からの信頼を失う可能性があります。特に、近年は、企業の社会的責任(CSR)が重視されており、従業員の健康管理は、企業にとって重要な経営課題となっています。
これらのリスクを回避するために、49人以下の事業所では、地域産業保健センターの利用や、産業保健師の活用などの対策が有効です。これらの機関では、専門家による健康相談や、事業場訪問などのサポートを受けることができます。
特に、地域産業保健センターは、中小企業の事業主や従業員を対象に、無料で健康相談や労働衛生に関する相談に応じています。
従業員の健康は、企業にとってかけがえのない財産です。産業医の雇用や地域産業保健センターの活用など、適切な対策を講じることで、従業員が安心して働ける環境を整備しましょう。
まとめ
従業員数が49人以下の事業所では、産業医の選任は法律で義務付けられていません。しかし、従業員の健康管理は企業にとって非常に重要です。従業員が健康でいきいきと働ける環境を作ることは、企業の生産性向上や業績アップにもつながります。
産業医を雇用するメリットは、従業員の健康状態を細かく把握し、適切なアドバイスや措置を講じることができる、健康診断の結果に基づいた、具体的な健康改善策を指導してもらえる、メンタルヘルスの問題を抱える従業員への早期対応が可能になる、過重労働や長時間労働の防止対策など、労働環境改善のアドバイスを受けられるなどがあります。
産業医を雇用しない場合、従業員の健康問題の悪化による休職者増加や生産性低下、労働災害発生時の適切な対応の遅れによる企業責任の追及、健康管理不足による企業イメージの低下などのリスクがあります。
産業医を雇用するか迷う場合は、地域産業保健センターの利用や産業保健師の活用などの対策が有効です。これらの機関では、専門家による健康相談や事業場訪問などのサポートを受けることができます。
参考文献
- 藤塚和光. 地域で経験した中小企業と産業医の関わり及び今後の問題. 日職災医誌. 2004;52:142-148.
- 五十嵐千代. 産業保健における産業保健看護職の役割と展望. 産業保健. 2024;36(3):213-234.
「さんぽちゃーと」運営である、愛知つのだ産業事務所株式会社では定期訪問を行う産業保健師と後方支援を行う顧問産業医を組み合わせた「レンタル産業保健室」を運営しています。産業保健師を活用することでコストを全体の抑えつつ、産業医からの手厚い支援を受けることが可能です。産業医の選任義務の無い事業所や多店舗事業所で健康経営に興味がある法人様に関してもオススメです。レンタル産業保健室に興味がある方は気軽にお問い合わせください。