産業医面談って意味ない?現役産業医が解説します。

産業医面談って意味ない?現役産業医が解説します。

「産業医面談って意味ない?」そう思ったことはありませんか?

年間を通して多くの時間を過ごす職場環境での悩みは、誰にでも起こりうるものです。 しかし、相談できる相手がいない、相談しづらいなど、悩みを一人で抱え込んでしまう人も多いのではないでしょうか。

労働政策研究・研修機構の調査によると、6割弱の事業所でメンタルヘルスに関わる問題を抱えている社員がおり、その人数は増加傾向だといわれています。 ストレスは、心身に悪影響を及ぼし、うつ病などの精神疾患や、身体的な病気の発症リスクを高める可能性も高いです。参考:「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」結果20110623.pdf (jil.go.jp)

産業医面談は、そんな悩みを抱える従業員にとって、有用なような存在です。

一方で指導に対して面談を行うのみで会社に働きかけが少ないケースも少なくありません。

この記事では、産業医面談の目的や役割、相談できる内容、注意点などを詳しく解説します。 ぜひ、ご自身の状況と照らし合わせて、産業医面談を活用してみて下さい。

産業医面談の目的と役割について知っておくべきこと

「産業医面談って意味ない?」そう思っている人もいるかもしれませんね。

確かに、長時間労働や職場上のストレスを抱えている際に、決まった様式に沿って簡単な質問をされるだけの面談では、あまり意味がないと感じてしまうのも無理はありません。

しかし、本来、産業医面談は、みなさんが健康に働き続けるための大切なサポート体制の一つです。

職場としても産業医面談を実施後、医師の意見を尊重して対応をする必要があり、しっかりと活用することが望まれます。

産業医面談がもたらす健康への影響

産業医面談は、みなさんが健康的に働き続けるために、とても重要な役割を担っています。

日々の仕事の中で感じるストレスや不安、体の不調など、なかなか周りの人には相談しづらい悩みを打ち明けられる場です。

例えば、

  • 「毎日残業続きで、疲れが取れない…」
  • 「上司との関係が悪くて、仕事に行くのが辛い…」
  • 「最近、集中力が続かなくて、ミスが増えてしまった…」

こんな悩みを抱えていませんか?

これらの悩みを一人で抱え込んでしまうと、心身に大きな負担がかかり、うつ病などの精神疾患に発展してしまう可能性もあります

特に、若いうちは、社会人としての経験が浅く、ストレスへの対処法が分からなかったり、自分の限界を超えて頑張りすぎてしまったりすることがあります。

また、職場の上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかず、孤立してしまうケースも少なくありません。

ベテラン従業員も昇進や異動などの大きなライフイベントは大きな心理的負荷がかかっています。

産業医面談では、医師である産業医が、皆さんの話をじっくりと聞き、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。

面談を通して、自分自身のストレス要因や改善策を一緒に考えることで、心身の健康を守り、より良いワークライフバランスを実現できる可能性が広がります。

産業医の役割:職場環境とメンタルヘルスの向上

産業医は、会社で働く人たちの健康を守るために、様々な役割を担っています。

主な役割は以下の通りです。

役割内容
健康相談従業員の健康に関する相談に乗り、アドバイスや指導を行う。
ストレスチェック従業員のストレス状態を把握し、必要に応じて面談や医師の診察につなげる。
職場環境の改善職場における健康リスクを評価し、改善策を提案する。
メンタルヘルス対策従業員のメンタルヘルス不調の予防や早期発見、治療と仕事の両立支援などを行う。
衛生教育健康に関する知識や生活習慣の改善などについての教育を行う。

このように、産業医は、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、健康上の問題があれば、早期に発見し、適切な対応をすることで、従業員が安心して働き続けられるようにサポートしてくれる存在なのです。

面談が企業に与えるメリット

産業医面談は、従業員だけでなく、企業にとっても多くのメリットがあります。

従業員が健康的に働くことができる環境を作ることは、企業の生産性向上や、より良い職場環境の実現に繋がります。

従業員がイキイキと働ける職場環境は、企業にとっても大きなメリットになります。

メリット内容
生産性の向上従業員の健康状態が改善することで、集中力やモチベーションが向上し、生産性が高まります。
欠勤率の減少メンタルヘルス不調やストレスによる欠勤を予防することで、欠勤率を減らすことができます。
定着率の向上働きやすい職場環境を作ることで、従業員の定着率を高めることができます。
企業イメージの向上従業員の健康に配慮した経営を行うことは、企業イメージの向上に繋がります。
労災リスクの低減職場における事故や病気のリスクを低減することができます。

企業は、産業医面談を通して、従業員の健康状態や職場環境に関する問題点を把握し、改善していくことで、従業員が安心して長く働き続けられる環境を作ることが期待できます。

産業医面談は、企業と従業員双方にとってwin-winの関係を築くための重要な機会と言えるでしょう。

産業医面談で話せる内容とその重要性

産業医面談では、皆さんが想像する以上に、様々な悩みを相談することができます。

例えば、「最近、職場で流行っているらしいんですけれど、目が乾燥して…」「仕事の内容や量が多すぎて、毎日が辛い…」「新しい業務についていけるか不安です…」「上司や同僚との人間関係がうまくいきません…」といった仕事の悩みや、「いつも疲れていて、なかなか疲れが取れません…」「夜眠れない日が続いて、日中も集中できません…」「食欲不振や過食が続いて、体重の変化が心配です…」といった心身の悩みも、遠慮なく相談して大丈夫です。

日頃、誰にも言えないモヤモヤした気持ちや不安、ストレスに感じていることなど、どんな小さなことでも構いません。心の中にしまい込まずに、産業医に打ち明けてみましょう。

相談できる悩みの具体例

みなさんは、病院に行く時、どんな時に行きますか?風邪を引いた時、お腹が痛い時、怪我をした時など、理由は様々だと思います。

同じように、産業医面談も、皆さんが心や体の不調を感じた時、または、何か不安に感じることがある時に、気軽に相談できる場所です。

例えば、

  • 「毎日残業続きで、疲れが取れない…休日も仕事のことが頭から離れない…」
  • 「上司との関係が悪くて、仕事に行くのが辛い…朝起きるとお腹が痛くなってしまう…」
  • 「最近、集中力が続かなくて、ミスが増えてしまった…夜もなかなか寝付けない…」

こんな悩みを抱えていませんか?

これらの悩みは、決して恥ずべきことではありませんし、特別なことでもありません。多くの人が経験する、ごく当たり前のことです。

一人で抱え込んでしまうと、心身に大きな負担がかかり、心身のバランスを崩し、うつ病などの精神疾患を発症するリスクが高まります。

早いうちに相談することで、問題が大きくなる前に解決できる可能性もあります。

職場のストレスや人間関係の問題

職場は、私たちにとって多くの時間を過ごす場所だからこそ、様々なストレスや人間関係の問題が生じやすいものです。

具体的なストレス要因の例
  • 業務量の増加や納期のプレッシャー
  • 急な業務内容の変更や新しいシステムへの対応
  • 上司や同僚とのコミュニケーション不足や人間関係のトラブル
  • 職場環境の悪さ(騒音、照明、温度など)
  • 仕事とプライベートのバランスの崩れ
人間関係の悩み
  • 上司からの過剰な要求やパワハラ。
  • 同僚との連携不足やコミュニケーション不足
  • 部下への指導や教育の難しさ
  • 顧客からのクレーム対応

産業医面談を活用する際の注意点

「産業医面談って結局役に立つの…?」と改めて考えている方も少なくは無いと思います。

「実際に話や悩みを聞いてもらえたけれど、実際に会社に何か働きかけてくれるのか?」という問題です。

実際に会社に対して働きかけを行う産業医と、面談のみの対応で終了とする産業医は分かれていると考えています。

産業医の権限として体調に支障が出ると予見される場合は、会社に対して措置を講ずるように意見を言っていくことが認められています。この内容を把握していれば会社としてもある程度は話を聞いていく必要があります。

産業医の意見を無視して体調が悪化した際は会社に民事上の責任や刑事上の責任が発生する可能性もあります。

面談前に知っておく産業医ができること

産業医が会社に対してできる代表的な内容としては下記の内容があります。

産業医のできること

・残業時間の低減・禁止

・出張の制限

・高所作業の制限

・運転の制限

・夜勤の禁止・制限

・配置転換に関する助言

例えば、糖尿病の治療中で、最近、仕事が忙しく、食生活が乱れがちで、血糖コントロールがうまくいっていないことを相談したいとします。

その場合、事前に、いつから糖尿病の治療をしているのか、どんな薬を服用しているのか、普段の食事内容や運動習慣、最近、血糖値を測定したか、などを整理しておくと、産業医に状況を正確に伝えることができます。

こうして提示された内容を基に低血糖発作で倒れる可能性があるから高所産業の禁止、血糖値の低下を図るため無理をせず働いてもらうために残業を制限するといった意見が会社に提出されるという流れです。

産業医に人事権は無い

知っていただきたい大切なポイントとして産業医に人事権はありません。

あくまで従業員の健康を確認し、会社に対して意見を伝えていきます。

したがって、「部署を変えてくれ」「業務内容を変更してください」といった悩みに対しては直接的に「そうしましょう」ということができないことが現実です。

しかしながら、体調を勘案して「危険性が高い」「このまま同様の就業を続けると体調が悪化する可能性が高い」「心理的負荷によりメンタル不調が引き起こされる可能性が予見されている」といった場合にはその旨と対策を伝えていくことが多いので相談や思いはしっかりと伝えていただくとよいでしょう。

職場に伝わっていない時の対策は

産業医にいくら相談をしても職場に伝わっていない時もあります。

産業医は従業員が体調を著しく悪化させない場合は一定の秘密保持をしていく必要があるため、すべてを会社に話すことができないケースが多いです。

これに関しては面談者自身から職場に内容を伝えてほしい、こうして欲しいという想いを産業医に伝えましょう。

産業医と言えでも他人の考えを読み取ることができるわけではありません。しっかりと話して伝えていきましょう。

まとめ

産業医面談は、従業員の健康を守るための重要な制度です。

従業員は、仕事や職場環境に関する悩み、心身の不調などを産業医に相談できます。

本記事で紹介した産業医の業務上の特性に関しても理解をしたうえで活用してください。

そうすることによって、職場担当者や従業員にとっても有意義に産業医面談を活用し「意味が無い」と感じるものから「意味がある」と感じることができるようになるとよいと感じます。

参考文献

  1. 池上和範, 江口将史, 大﨑陽平, 中尾智, 中元健吾, 日野亜弥子, 廣尚典. 若年労働者のメンタルヘルス不調の特徴と対策 ─自由回答式質問票を用いた横断調査─. 産業衛生学雑誌 2014;56(3):74-82. DOI: https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.E13003
  2. 藤野善久, 高橋直樹, 横川智子, 茅嶋康太郎, 立石清一郎, 安部治彦, 大久保靖司, 森晃爾. 産業医が実施する就業措置の文脈に関する質的調査. 産業衛生学雑誌 2012;54(6):267-275. DOI: https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.B12003