産業医業務では、面談そのものだけでなく、その後の記録整理、意見書作成、PDF化、送付、保存、検索といった周辺業務に少なくない時間がかかります。長時間労働者への面接指導では、事業者に面接指導結果の記録作成と5年間保存が求められており、面談後の記録と管理は実務上も法令上も軽視できません。
実際の現場では、今もWordやExcelを使い、PDFに変換してメール送信する運用が広く残っています。こうした方法でも業務は回りますが、件数が増えるほど、同じ内容の転記、共有先ごとの書き分け、修正対応、過去記録の検索などが負担になりやすくなります。
ただし、ここでいう電子カルテは、病院で使う電子カルテをそのまま産業保健に持ち込めばよい、という話ではありません。産業保健では、扱う情報の性質も、共有相手も、求められる統制も異なるためです。労働者の健康情報は要配慮個人情報に該当しうるため、取得や利用、共有の在り方には慎重な整理が必要です。

産業医向け電子カルテとは何か

産業医向け電子カルテは、産業医面談や就業上の意見、面接指導結果、必要な共有文書などを、一定のルールのもとで記録・出力・保存・検索しやすくするための仕組みです。
ここで重要なのは、単なる「データ保存の箱」ではないことです。産業保健の現場では、医師が把握すべき情報と、会社側に共有すべき情報が必ずしも一致しません。
これは、厚生労働省の「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い」に関する指針が、事業場ごとの取扱規程の整備と、目的の範囲内での適正な保管・使用を求めていることとも整合的です。
なぜ今、産業医向け電子カルテが必要なのか

産業医の負担は、面談中だけでなく、面談後に大きくなりがちです。
1件では大きな負担に見えなくても、面談が連続すると、記録後の整理と送付の負担が積み上がります。
この点は、人事担当者にとっても無関係ではありません。記録や共有の流れが不安定だと、必要な情報が届くまでに時間がかかったり、記載の粒度が案件ごとにばらついたり、保存・検索のしにくさが運用上のリスクになったりします。
厚生労働省の面接指導マニュアルでも、面接指導の結果記録や事後措置の整理、保存の重要性が示されています。
産業医向け電子カルテの意義は、単にペーパーレス化することではありません。
記録、判断、共有、保存の流れを整え、産業医がより本質的な業務に時間を使いやすくすることにあります。
病院の電子カルテと何が違うのか

病院の電子カルテと産業医向け電子カルテは、見た目や名称は似ていますが、役割はかなり異なります。
病院の電子カルテは、診療、処方、検査、病名管理などを通じて、医療機関内で必要な情報を共有し、診療を円滑に進めることが中心です。
一方、産業保健では、面談結果や健康情報のうち、就業上の配慮に必要な内容を整理し、事業者側の健康確保措置につなげることが中心になります。厚生労働省の健康情報取扱い指針でも、事業者は健康確保に必要な範囲で情報を収集・保管・使用すべきとされており、産業保健では特に「必要な範囲」が重要になります。
そのため、病院の電子カルテのように「必要な職種が広く見られる」設計をそのまま持ち込むと、産業保健では過剰共有につながるおそれがあります。個人情報保護委員会は、労働者の健康情報のうち要配慮個人情報に該当するものについて、法令に基づく場合等を除き、取得時にあらかじめ本人同意が必要であること、またストレスチェック結果は同意なく事業者へ提供してはならないことを示しています。
つまり、産業医向け電子カルテで重要なのは、「たくさん記録できること」以上に、情報を適切に分けて扱えることです。
ExcelやWord運用ではなぜ限界が出やすいのか
WordやExcelは、自由度が高く、多くの産業医が慣れているため、現在も実務で使いやすい道具です。これ自体は不自然なことではありません。
ただ、課題になりやすいのは、運用が長期化し、件数が増えたときです。
ファイル数が増えると、保存場所、版管理、企業別の整理、過去記録の検索が煩雑になります。さらに、共有のたびにPDF化やメール送信が必要になり、修正対応が入ると再出力・再送が発生します。
このため、産業医向け電子カルテを検討する際は、入力画面の見やすさだけでなく、検索性、版管理、共有まで含めた一連の流れを見た方が実務に合いやすいでしょう。

産業医向け電子カルテに求められる機能

人事担当者と産業医の双方にとって、特に重要なのは次のような点です。
まず、面談記録から意見書や共有文書へのつながりが自然であることです。面談のたびに別ファイルを起こし直す運用では、二重入力や転記が増えやすくなります。
次に、権限管理です。誰が何を見られるかが曖昧だと、要配慮個人情報の取り扱いリスクが高まります。厚生労働省は事業場ごとの取扱規程の整備を求めており、個人情報保護委員会も、健康情報の取得・利用・提供に慎重な対応を求めています。したがって、システム側でも、閲覧権限の分離や共有範囲の設定がしやすいことが望まれます。
さらに、監査のしやすさも重要です。医療情報システム安全管理ガイドラインは医療機関等を主対象としたものですが、機微性の高い情報を扱うシステムでは、アクセス管理やログ管理、認証強化などの考え方は参考になります。産業保健領域でも、少なくとも二要素認証、アクセス権限、操作ログの観点は確認しておく価値があります。これは、医療機関向けガイドラインをそのまま適用すべきという意味ではなく、高い機微性を持つ情報を扱う以上、セキュリティの基準を甘く見ない方がよいという実務的な見方です。
AI文字起こしや要約機能はどう考えるべきか
近年は、AIによる文字起こしや要約機能も現実的な選択肢になっています。面談内容のたたき台作成や記録補助としては、有用な場面があるでしょう。
どの情報を記録として残すか、どの情報を事業者に共有するか、就業上の意見をどうまとめるかといった判断は、産業医や産業保健職が担うべき部分です。
特に、健康情報の共有は法令・指針・本人同意の整理と関わるため、要約の精度だけで判断してよい領域ではありません。
そのため、AI機能の有無だけでシステムを選ぶのではなく、まずは記録管理、権限設定、共有の仕組みが妥当かを確認し、その上で補助機能として評価する方が現実的です。

選ぶときに人事と産業医が最初に確認したいこと
導入前にまず確認したいのは、誰がどの情報を見るのか、という点です。
産業医が把握すべき詳細情報と、人事が就業配慮のために知るべき情報は同じではありません。したがって、システム選定では、共有しやすさだけでなく、見せすぎない設計ができるかを見る必要があります。これは、厚生労働省の健康情報取扱い指針が、健康確保措置に必要な範囲での取扱いを求めていることとも一致します。
法令上5年保存が必要な文書がある以上、ここは人事側でも明確にしておきたいポイントです。
最後に、システムの多機能さよりも、日常的に使う機能が無理なく回るかを見る方が実務的です。産業医面談、意見整理、共有、検索、保存。この基本動線が使いにくいと、結局WordやExcelに戻ることが多くなります。
まとめ
産業医向け電子カルテは、病院の電子カルテを小さくしたものではありません。
産業保健では、面談記録を残すこと自体に加え、健康情報を必要な範囲で適切に扱い、就業上の配慮につながる形で整理・共有することが重要になります。労働者の健康情報は要配慮個人情報に該当しうるため、本人同意、利用目的、共有範囲、保存、権限管理を丁寧に考える必要があります。
人事担当者にとっては、必要な情報が適切な形で届き、運用が安定することが大切です。産業医にとっては、記録・共有の負担が整理され、より本質的な判断や面談に時間を使いやすくなることが大切です。
その両方を満たせるかどうかが、産業医向け電子カルテを選ぶ際の大きな分かれ目になるでしょう。
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