「休職面談やメンタルヘルスのヒアリング、面談内容をカルテや記録にまとめるだけで、あっという間に1日が終わってしまう……」
そんな多忙を極める人事担当者や産業医の皆様にとって、自動文字起こしツールや要約をしてくれる生成AIは、まさに業務効率化の救世主ともいえます。
人事や産業保健の現場では、従業員の病歴や家庭環境といった「要配慮個人情報(機微情報)」という、極めてセンシティブなデータを扱います。
効率化を優先するあまり、AIツールの仕様を理解せずに使ったり、倫理的な配慮を怠ったりすると、プライバシー侵害による訴訟トラブルに発展するリスクがあります。さらに恐ろしいのは、情報漏洩や不適切な対応が従業員を精神的に追い詰め、最悪の場合は自殺を含む「命に関わる事態」を招きかねないという事実です。
本記事では、従業員の命と企業の信頼を守るために、人事・産業医が「絶対にやってはいけないAIのNGな使い方」を3つのポイントに絞って徹底解説します。
AIは正しく使えば最高のパートナーになります。リスクをしっかり把握し、安全でクリーンな面談環境を作るための第一歩として、ぜひ最後までご一読ください。
従業員の命と企業を守るために。産業保健におけるAI活用の危険性

人事面談や産業医面談の業務効率化において、AIは強力なサポーターとなります。しかし、メンタルヘルス不調や休職・復職に関わる「要配慮個人情報」の取り扱いを一歩間違えれば、従業員を精神的に深く傷つけることになります。
特にメンタルヘルス不調を抱えている従業員は、周囲の目や自身のキャリアに対して非常に敏感になっています。情報が漏れたり、不適切な扱いを受けたりしたと感じた場合、企業への不信感が増大し、最悪のケースとして自死を選んでしまうリスクもゼロではありません。
さらに、プライバシー権の侵害による従業員からの損害賠償請求や、企業の安全配慮義務違反を問われる訴訟トラブルに発展するケースも想定されます。AIを導入する前に、人事と産業医が絶対に知っておくべき「越えてはいけない一線」を確認しましょう。
【絶対NG①】従業員の同意を得ない「面談の無断録音・AI文字起こし」

休職面談やハラスメントのヒアリングにおいて、記録の手間を省くためにスマートフォン等で無断録音し、AI文字起こしツールにかける行為は厳禁です。
- 信頼関係の完全な崩壊従業員は「会社(人事・産業医)に監視・搾取されている」と感じ、面談での本音の対話が不可能になります。特にハラスメント事案やメンタルヘルス面談では、信頼関係が崩れることで問題解決が極めて困難になります。
- 正しいプロセス(インフォームド・コンセントの徹底)録音やAIによる議事録作成を行う場合は、必ず事前に「記録作成の効率化のためのみに使用し、外部には漏らさない」という目的を明確に伝えましょう。口頭だけでなく、書面やシステム上で本人の明確な同意を得ることが大前提です。

【絶対NG②】病名などの「機微情報」をAI要約し、職場へ一斉送信する

産業医面談の記録(カルテ情報、病名、服薬状況、家庭の事情など)をそのまま外部のAIツールに入力し、「面談サマリー」として上司や関連部署にチャットやメールで一斉送信する行為は、極めて危険な情報漏洩です。
- AIの学習データ化リスク無料のAIツールなど、オプトアウト(学習拒否)設定をしていない状態で機微情報を入力すると、その従業員のプライバシーがAIの学習データとして吸収され、全く関係のない第三者に漏洩するリスクがあります。必ず「学習データに利用されない(オプトアウトされた)法人向け環境」で利用してください。
- 二次漏洩とハラスメントの誘発従業員の同意なく、病名や面談内容の詳細を職場の上司などに共有することは個人情報保護法違反に問われます。共有事項は「就業上の配慮に必要な情報(例:残業不可、出張制限など)」のみに留め、必ず個人情報をマスキング(匿名化)して連携してください。

【絶対NG③】産業医の「レビュー(最終確認)なし」で意見書を提出する

AIが生成した「就業上の措置に関する意見書」や「面談記録の要約」を、産業医や保健師が中身を精査せずに、そのまま人事や従業員へ提出・共有することは、医療倫理・実務の両面で絶対に許されません。
- ハルシネーション(もっともらしい嘘)の危険AIは文脈を誤解し、事実と異なる評価や、医学的に不適切な就業制限の指示を生成することがあります(ハルシネーション)。これを鵜呑みにして誤った対応をとると、従業員の症状悪化や労災トラブルに直結します。
- 最終的な判断と責任は「人間」にあるAIは責任を取ってくれません。AIによる出力結果はあくまで「精度の高い下書き」です。従業員の心身の健康を左右する最終的な判断は、必ず産業医をはじめとする専門家によるファクトチェック(事実確認)とレビューを経て行われなければなりません。
まとめ:人事と産業医で連携し「AI活用の社内ルール」を策定しよう
面談業務におけるAI活用は、「圧倒的な便利さ」と「致命的なリスク」が表裏一体です。安全に運用するためには、以下のようにルールを事前に定めておくことが不可欠です。
| 業務ステップ | 絶対にやってはいけないNG行動 | 推奨される安全なアクション |
| 録音・記録 | 面談を無断録音してAIツールにかける | 事前に目的を説明し、本人の明確な同意を得る |
| 情報の入力 | 個人名や病名など機微情報をそのままAIに入力 | 匿名化・マスキングし、学習されない(オプトアウト)環境で使う |
| 情報の共有 | AIの要約をそのまま関係部署へ一斉送信する | 本人の同意範囲内で、就業配慮に必要な情報のみを共有する |
| 最終判断 | AIが作成した意見書・記録をそのまま提出する | 必ず産業医や人事担当者が目視でレビューし修正を行う |
AIに業務を丸投げするのではなく、「AIを安全に使いこなす」ことが求められています。まずは人事と産業保健スタッフが共同で、プライバシーを守るための明確な社内ガイドラインを策定することから始めましょう。


