「高ストレス者の面談が終わって、産業医から書類が届いた。でも、この報告書を誰が受け取って、何をして、どこまで上司に伝えていいのか分からない」——人事・総務の方から、面談そのものより”面談のあと”の相談をいただくことが増えています。
先に結論です。高ストレス者面談の報告書・意見書は医師が書くものであり、会社が書く書類はありません。会社の仕事は「意見書を受け取る」「就業上の措置を決めて実行する」「記録を5年保存する」の3つです。会社に届く書類は、実務上ほとんどの場合厚生労働省様式の意見書1枚で、そこに書かれているのは病名や悩みの中身ではなく「就業上どう配慮すべきか」の意見です。
この記事では、現役産業医として毎年この面談と意見書を書いている立場から、報告書・意見書に何が書かれるのか、人事はどう受け取り、上司にどこまで伝え、記録をどう保存するのかを、面談前の準備から事後措置まで一連の手順書として解説します。制度全体の解説はストレスチェック面接指導の完全ガイドに譲り、本記事は「人事が手を動かす部分」に絞ります。
高ストレス者面談の報告書とは?——医師の「面談記録」と会社が受け取る「意見書」は別物

高ストレス者の面接指導は、ストレスチェックで「高ストレスであり面接指導が必要」と判定された従業員のうち、本人から申出があった人に対して医師が行う面談です(労働安全衛生法第66条の10)。面談で心身の状況と仕事の負担を確認し、必要に応じて残業制限や業務軽減などの就業上の措置につなげます。治療ではなく、働き続けるための環境調整が目的です。
ここで人事が最初に押さえるべきなのは、「面談に関する書類は1種類ではない」ということです。情報の詳しさが違う3つの層があり、職場に近づくほど情報は少なくなるのが正しい設計です。なお、名前の似た「ストレスチェックの報告書」(常時50人以上の事業場が年1回、労基署に出す様式第6号の3)は、この3つとは別の書類です。書き方はストレスチェック報告書の書き方と提出期限で解説しています。
| 書類 | 書く人 | 主な内容 | 誰が持つか |
|---|---|---|---|
| ①面談記録(医師の記録) | 面談した医師 | 面談で聞いた事実の詳細。症状・生活・家庭の事情まで含む | 医師(産業医)が保持。会社には渡さない |
| ②面接指導結果報告書 | 医師 | 勤務の状況、心理的負担の状況、心身の状況の概要 | 会社(人事の担当者)。必要な場合のみ |
| ③意見書(就業上の措置) | 医師 | 就業区分、具体的な措置、期間、再評価日 | 会社(人事の担当者→措置決定者) |
私の実務では、会社に渡す書類はほとんどの場合③の意見書1枚で、厚生労働省の様式例をそのまま使うことが多いです。必要に応じて簡単な報告書を添えることもありますが、会社に情報を渡しすぎることは、本人にとっても会社にとってもリスクです。特別なトラブルがなければ、意見書だけで事後措置は十分に動きます。
会社が受け取る報告書・意見書には何が書かれる?——厚労省様式の項目と記入例

厚生労働省は「面接指導結果報告書・就業上の措置に係る意見書」の様式(高ストレス者面接指導実施マニュアル 付録2)を公開しています。項目は次のとおりで、人事が見るべきポイントは下段の「医師の意見」の欄に集中しています。
| 様式の項目 | 書かれていること | 人事が見るポイント |
|---|---|---|
| 実施年月日・氏名・医師名 | いつ、誰が、誰に面談したか | 記録の必須項目。日付は「申出から1か月以内」の証拠になる |
| 勤務の状況 | 労働時間、業務内容、負荷の概要 | 措置の根拠。長時間労働が隠れていないか |
| 心理的な負担の状況 | ストレスチェック結果の概要(同意がある場合) | 点数そのものより「負担の主因」 |
| その他の心身の状況 | 睡眠・食欲など、就業判断に必要な範囲 | 詳細な症状や家庭の事情は本来ここに書かれない |
| 就業区分 | 通常勤務/就業制限/要休業 | 最初に見る欄。措置の重さが決まる |
| 就業上の措置の内容 | 残業上限、深夜業・出張の制限、業務変更など | 数値と期間があるか |
| 措置の期間・再評価 | いつまで、いつ見直すか | 再評価日をカレンダーに入れる |
| 職場環境の改善に関する意見 | 部署・業務の側の改善点 | 衛生委員会・集団分析への接続材料 |
意見書の記入例——実際にはこう書かれて届く
私が実際に書いている意見書は、個人が特定されない形にすると次のような文面です。共通しているのは「区分・措置・期間・再評価」の4点がすべて具体的であることです。
人事が困る意見書——「残業の低減に努めてください」では動けない
意見書を受け取ったら、数値・期間・再評価日の3点がそろっているかを確認してください。欠けていれば、医師に「実行するために、時間の上限と期間を教えてください」と問い合わせて構いません。これは医師の判断への介入ではなく、措置を実行するための正当な確認です。
健康診断の事後措置で使う産業医意見書の書き方・運用ルールは、下記の記事で詳しくまとめています。高ストレス者面談の意見書も、社内での受け取り方は同じ設計で運用できます。産業医意見書の書き方や運用ルールは産業医意見書の2枚運用にまとめています。

申出の受付票と医師への情報提供の同意書は、無料PDF『高ストレス者面談 人事の実務書式集(申出の受付から記録の保存まで・7書式)』に書式で入れています。
面談前に人事がやることは?——申出窓口・案内・面談枠・同意・事前情報の5つ

面談の対象になるのは「高ストレスと判定され、医師が面接指導を必要と認め、本人が会社に申し出た」従業員です。会社は本人の同意がない限り、誰が高ストレスかを知ることができません。つまり、申出が来る前に人事ができるのは”申し出やすい環境”を整えることだけです。
- 申出窓口を1か所に決める。人事の特定担当者か外部窓口を指定し、直属の上司を窓口にしない。「申し出た事実が上司・同僚に漏れない」ことを明文化する。
- 不利益取扱いの禁止を周知する。面談を申し出たことを理由にした解雇・減給・降格・不当な配置転換は法律で禁止されている。これを全社に告知することが、申出の心理的ハードルを下げる。
- 案内文と勧奨の流れを実施者と決めておく。結果通知と同時に実施者(医師・保健師)から面談を勧める仕組みがないと、申出はほぼ発生しない。勧奨の回数ルールや相談しやすい会社の作り方は高ストレス者が面接指導を申し出ないときの対応と勧奨の実務で解説している。
- 面談枠を先に押さえる。申出から面談までは「おおむね1か月以内」が目安。ストレスチェック実施後の月に予備枠を確保しておく。期限の考え方は面接指導はいつまで?1か月以内の社内フローを参照。自社の産業医の枠が足りないときは、外部の医師の空き枠に本人が直接予約できるサンポマッチも使えます。
- 同意を取って事前情報を医師に渡す。申出があった段階で、ストレスチェック結果と労働時間を医師に提供することへの同意を本人から取得し、面談前に医師へ渡す。質の高い意見書は、この事前情報で決まる。
面談当日、医師は何を見ているのか——人事が知っておく5ステップ

面談に人事が同席することはありませんが、医師が何を見て意見書を書いているかを知っておくと、届いた意見書の読み方が変わります。私の面談はおおむね次の順番で進みます。
- 目的と守秘の説明。「健康確保のための面談で、職場には配慮に必要な最小限しか伝えない」と最初に伝える。ここで警戒が解けないと、後の情報が出てこない。
- ストレス要因の事実確認。仕事の量・質、人間関係、裁量の有無。ストレスチェックの回答をもとに、何が一番の負担かを絞る。
- 睡眠・食欲・生活。中途覚醒や早朝覚醒、食欲低下はメンタル不調の最重要サイン。ここで受診勧奨の要否がほぼ決まる。
- 長時間労働の確認。高ストレスの裏には長時間労働が隠れていることが多い。勤怠データと実態の乖離を確認する。
- 就業上の措置を具体化する。会社が実行できるアクションに落とす。「上司と相談して調整することが望ましい」ではなく「当面1か月、時間外は月20時間以内」まで具体化して意見書にする。
面談後の流れは?——意見聴取→措置決定→上司への伝え方

意見書が届いた瞬間が、会社の対応のスタートです。法律上、会社は面接指導のあと遅滞なく(おおむね1か月以内に)医師から意見を聴き、必要な措置を講じなければなりません。実務では次の3段階で固定します。
①受領者を固定する
意見書を受け取る人は、人事責任者など措置を決める権限のある人に固定します。担当者が個人的に受け取って机に置いたまま、というのが最も多い停滞パターンです。「意見書が届いたら◯◯部長に回付し、3営業日以内に措置を決める」まで決めておきます。
②措置はルールで決める——担当者の感情で決めない
面談後に措置が動かない会社に共通するのは、担当者が意見書をどう使って会社に働きかけるかが決まっていないことです。逆に動く会社は、「こういう意見書が来たら、誰がどう対応し、どこに周知するか」があらかじめルール化されています。
③上司に伝えるのは「就業制限の内容」だけ
ここが高ストレス者面談で最も事故が起きやすいポイントです。本人の同意がなければ、上司に伝えてよいのは就業上の措置の内容のみです。「なぜその措置なのか」の背景(悩みの中身、症状、家庭の事情)は伝えません。
| 上司に伝えてよいこと | 同意なく伝えてはいけないこと |
|---|---|
| 時間外労働は月20時間以内(1か月間) | ストレスチェックの点数・結果 |
| 深夜業・出張の制限、担当業務の一時変更 | 面談で話した悩みの中身、人間関係の詳細 |
| 再評価の時期(1か月後に見直し) | 症状、受診の有無、診断名 |
| 「配慮が必要な期間中の相談先は人事」 | 家庭の事情、プライベートの情報 |
措置を実行するために背景をもう少し伝えたい場合は、必ず本人に「ここまでは上司に伝えてよいですか」と確認してからにします。この確認を飛ばして情報が漏れると、その会社は二度と従業員から信用されず、ストレスチェック制度そのものが機能しなくなります。一度これをやってしまった会社では、翌年以降の受検率と申出率がはっきり落ちます。
「医師用」と「職場用」で情報の層を分けて運用する具体的な方法は、産業医面談の情報を職場に伝える範囲|「2枚運用」で守る健康情報の3段階管理で図解しています。
就業上の措置の決定書、上司への伝達メモ、再評価、5年保存の台帳まで、7つの書式を無料PDF『高ストレス者面談 人事の実務書式集(申出の受付から記録の保存まで・7書式)』にまとめています。
面談記録はどう保存する?——5年保存・保管者・ストレスチェック結果との分離
面接指導の結果の記録は、会社が作成し5年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第52条の18)。記録に残す項目は次のとおりで、厚労省様式の報告書・意見書をそのまま綴じれば要件を満たします。
- 面接指導の実施年月日
- 対象となった労働者の氏名
- 面接指導を行った医師の氏名
- 労働者の勤務の状況
- 労働者の心理的な負担の状況
- その他の労働者の心身の状況
- 医師の意見(就業上の措置に関する意見)
保管で実際に起きている失敗
保存年数より問題になるのは「誰が持っているか」です。現場で見る失敗は、担当を外れた元担当者が個人のフォルダや机に持ったままになっている、あるいは本来関係のない部署の人が閲覧できる場所に置かれている、というものです。5年という期間は、担当者の異動を必ず挟みます。
保存した記録を、次回の面談や復職判断、再評価にどう活かすかは産業医の面談記録を現場で活かす方法で解説しています。
実務で注意すべき落とし穴10選
高ストレス者面談の前後で、法令違反や信頼の失墜につながりやすい10の落とし穴です。自社で起きていないか、チェックリストとして使ってください。
- 同意なき結果把握: 人事が実施者から高ストレス者の名前や点数を聞き出す(明確な法律違反)。
- 申出への不利益取扱い: 面談を申し出たことを理由に、評価を下げる・意に反する配置転換をする。
- 勧奨の欠落: 実施者からの面談勧奨がなく、誰も申し出ないまま年度が終わる。
- 窓口が直属の上司: 怖くて誰も申し出られない設計になっている。
- 曖昧な意見書を放置: 「低減に努める」のまま受け取り、数値・期間を医師に確認しない。
- 意見書の内容への口出し: 「こう書いてほしい」と医師に依頼する。書いてしまう医師も問題。
- 上司への過度な共有: 面談で聞いた悩みや家庭の事情を、措置の理由としてそのまま上司に伝える。
- 受領者・ルールの不在: 意見書が担当者の机で止まり、案件ごとに対応が変わる。
- 記録の私物化: 元担当者が記録を持ったまま異動し、5年保存が事実上できていない。
- 再評価の欠如: 見直し日が設定されず、制限がだらだら続く、あるいは勝手に解除される。
とくに3と8は「面談が1件も発生しない」「発生しても何も変わらない」という形で会社のリスクとして積み上がります。放置がどう会社の責任問題になるかは高ストレス者を放置するとどうなる?会社のリスクで整理しています。
面談する医師がいない場合は?——スポット面接指導と意見書の受け取り方
面接指導は「医師」であれば実施でき、自社の産業医である必要はありません。産業医がいない50人未満の事業場や、産業医の面談枠が足りない場合は、外部の医師にスポットで依頼できます。2028年4月からはストレスチェックが50人未満の事業場にも義務化されるため、この形はさらに一般的になります。
外部の医師に依頼するときに、契約前に確認しておくべきことが2つあります。
- 意見書は誰から、どの形で届くか。ストレスチェックの委託事業者が管理して事業者経由で届く場合と、医師から会社へ直接PDFや紙で渡す場合があります。受け取りルートが曖昧だと、意見書が誰のところにも届かないことが起きます。
- 面談から意見書までの納期。私は「面談と意見書はセット」と考えて、原則1営業日以内に出しています。1週間かかる運用では、その間に措置が講じられず、体調を崩す人が出ます。
まとめ:意見書が届いたときが、対応の「始まり」
- 報告書・意見書は医師が書く。会社に届くのは実務上ほぼ厚労省様式の意見書1枚。
- 意見書は就業区分・措置・期間・再評価日の4点を確認。曖昧なら医師に数値と期間を問い合わせる。
- 会社が意見書の内容を指示することはできない。伝えてよいのは実行可能性だけ。
- 受領者を固定し、「こういう意見書が来たら誰がどう動くか」をルール化する。案件ごとに変えない。
- 上司に伝えるのは就業制限の内容だけ。それ以上は本人に「ここまで伝えてよいか」を確認してから。
- 記録は5年保存。鍵付きキャビネットかアクセス制限フォルダで、担当者交代時に引き継ぐ。
- 外部の医師に依頼するなら、意見書の受け取りルートと納期を契約前に確認する。
人事担当者の方にひとつだけお伝えしたいのは、意見書が届いて内容を確認したその時点が、会社の対応のスタートだということです。面談を実施し、書類を受け取ったところで安心してしまう会社が本当に多い。意見書はゴールではなく、従業員を守るための「きっかけ」です。ルールを決めて、届いたその週に動いてください。
この記事の流れを書式にしたものが無料PDF『高ストレス者面談 人事の実務書式集(申出の受付から記録の保存まで・7書式)』です。書き換えてそのまま社内様式にできます。
よくある質問
Q1. 高ストレス者面談の報告書は、会社が作成するのですか?
いいえ。面接指導結果報告書と意見書は面談を行った医師が作成します。会社の役割は、意見書を受け取り、就業上の措置を決めて実行し、その記録を5年間保存することです。会社が意見書の内容を指示することはできません。
Q2. 会社は面談の内容をどこまで知ることができますか?
会社が正当に受け取れるのは医師の意見(就業区分、措置の内容、期間、再評価日)です。ストレスチェックの点数や面談で話した悩みの中身は、本人の同意がない限り会社には渡りません。実務では厚労省様式の意見書1枚が届く形がほとんどです。
Q3. 意見書の内容は上司にどこまで伝えてよいですか?
本人の同意がなければ、伝えてよいのは就業上の措置の内容(残業上限、業務の変更、期間)のみです。措置の背景にある症状や悩み、家庭の事情は伝えません。背景を伝える必要がある場合は、本人に「ここまで上司に伝えてよいか」を確認してからにしてください。
Q4. 面接指導の記録は何年保存し、誰が保管しますか?
5年間です(労働安全衛生規則第52条の18)。会社が保管者で、実務上は人事責任者と担当者に限定した鍵付きキャビネットまたはアクセス制限フォルダに保管します。ストレスチェックの結果(実施者が保管)とは別に管理し、担当者交代時に保管場所と権限を引き継ぎます。
Q5. 意見書の書き方が曖昧で、どう対応すればよいか分かりません。
「残業の低減に努める」のように数値や期間がない意見書は、医師に「実行するために時間の上限と期間を教えてください」と問い合わせて構いません。これは医師の判断への介入ではなく、措置を実行するための正当な確認です。就業区分・措置・期間・再評価日の4点がそろって初めて、会社は動けます。


