産業医面談や人事面談の記録作成を効率化するため、AI文字起こしツールの導入を検討する企業が増えています。
しかし、面談では従業員の健康状態やキャリアに関する機微な情報が語られるため、「録音やAIによる音声処理について、どこまで同意が必要なのか」と悩む担当者も多いでしょう。
本記事では、AI文字起こしツールを利用する際の「同意が必要なケース・不要なケース」の境界線と、実務においてトラブルを防ぐための安全な運用フローについて、法的ガイドラインに基づいてわかりやすく解説します。

なぜ面談のAI文字起こしで「同意」が重要になるのか?

人事面談や産業医面談でやり取りされる情報は、単なる業務上の会話ではありません。特に産業医面談においては、病歴、心身の不調、治療の状況など、個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当する内容が多く含まれます。
さらに、会話を録音してテキスト化すること自体が個人情報の取得にあたる上、それを外部のAIクラウドサービスに送信して処理させることは、データ漏洩や予期せぬ二次利用(AIの学習データとしての利用など)のリスクを伴います。
従業員との信頼関係が不可欠な面談において、無断での録音やAI処理が発覚すれば、重大なコンプライアンス違反や信頼失墜に繋がるため、慎重な対応が求められます。
同意が必要なケースと不要なケースの境界線
結論から言うと、面談時の音声をAIで文字起こしする場合、原則として事前の同意取得が必要と考えて運用するのが最も安全です。
【同意が必須となるケース】
- 要配慮個人情報(健康情報など)が含まれる面談(産業医面談、休職・復職面談など)
- 利用するAIツールがクラウド型であり、音声データが外部サーバーに送信される場合
- 就業規則やプライバシーポリシーに「AIツールを利用した面談記録の作成」についての明記がない場合
厚生労働省の「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」などでも、従業員への透明性の確保が求められています。トラブルを避けるためにも、「不要なケースを探す」のではなく「スムーズに同意を得る」運用に切り替えるべきです。
トラブルを防ぐ!安全な同意取得の運用フローと例文

同意を取得する際は、単に「録音していいですか?」と聞くだけでは不十分です。「何のために」「どのように処理されるのか」を明確に伝え、安心してもらう必要があります。
推奨される運用フロー:
- 事前通知(面談予約時): メールやチャットでの面談案内の際に、AIツールの使用について記載しておく。
- 口頭確認(面談開始時): 面談の冒頭で再度説明し、了承を得る。
- 記録の保持: 同意を得た事実を面談記録(カルテなど)の冒頭にテキストとして残しておく。
【説明・同意取得の例文】
「本日の面談ですが、私(産業医・人事担当者)があなたのお話を漏らさず正確に記録し、より良いサポートに繋げるため、記録作成の補助目的でAI文字起こしツールを使用してもよろしいでしょうか? こちらのツールはセキュリティ対策がされており、音声やテキストデータがAIの外部学習に利用されることは一切ありませんのでご安心ください。」
このように、「目的(記録作成の補助)」「メリット(正確なサポート)」「安全性(外部学習されない)」の3点をセットで伝えることで、従業員の不安を払拭しやすくなります。
同意取得を無効にしないための「AIツール選び」の必須条件

従業員から「外部学習に利用されないなら」という条件で同意を得たにもかかわらず、実際にはデータが学習に使われてしまうツールを使用していた場合、重大なプライバシー侵害となります。
産業医や人事部がAI文字起こしツールを選定する際は、以下の条件を必ず満たしているか確認してください。
- オプトアウト(学習利用の拒否)機能があるか: エンタープライズ版や法人向けプランなど、入力データがAIのモデル学習に利用されない(ゼロデータ保持、またはオプトアウト設定が可能)ツールを選ぶことが絶対条件です。
- セキュリティ基準の適合: 通信の暗号化や、国内サーバーでのデータ保管など、自社のセキュリティ要件やISMS等の基準を満たしているか確認しましょう。
- アクセス権限の管理: 文字起こしされたテキストデータに対し、関係者(該当する人事担当者や産業医のみ)しかアクセスできないよう、厳格な権限管理ができるシステムが必要です。

まとめ:透明性のある運用で、面談の質と効率を両立しよう
面談のAI文字起こしは、担当者の業務負担を劇的に軽減し、より従業員との対話に集中できる環境をもたらしてくれます。
- 原則として事前の同意取得は必須(特に健康情報を扱う場合は要注意)
- 「予約時」と「開始時」の二段構えで、目的と安全性を伝えて同意を得る
- 学習データに利用されない(オプトアウトされた)安全な法人向けAIツールを使用する
これらのルールを守り、従業員に透明性のある運用を示すことで、「監視されている」という不信感を生むことなく、面談の質と業務効率化を両立させることができます。社内の個人情報保護規程とも照らし合わせながら、安全な導入を進めていきましょう。


