「従業員の健康情報という機微なデータを、クラウドに保存しても本当に大丈夫なのか?」 「経営陣から『今まで通り紙やExcelで十分だ』と言われてしまい、システム化が進まない……」
働き方改革やリモートワークの普及に伴い、産業保健の現場でもクラウド化の波が押し寄せています。しかし、人事労務担当者や産業医の多くが、情報漏洩のリスクを恐れて導入に足踏みしているのが現状です。
この記事では、産業医のリアルな生の声を交えながら、クラウド保存の法的根拠と、絶対に外せないセキュリティ要件、そして現場にもたらされる「真のメリット」を解説します。
面談記録のクラウド保存は法的に問題ない?
従業員の面談記録や健康診断の結果、就業上の措置に関する意見書などは、個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当します。そのため、取り扱いには厳格なルールが求められます。
しかし、「要配慮個人情報だからクラウドに置いてはいけない」という法律はありません。厚生労働省が定める『労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置等における健康情報の取扱いに係るガイドライン』等においても、適切なアクセス制御とセキュリティ対策が講じられていれば、システム(クラウド含む)での情報管理は認められています。
労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置等における健康情報の取扱いに係るガイドラインから引用
むしろガイドラインでは、情報の紛失や改ざんを防ぎ、必要最小限の権限を持つ者だけがアクセスできる「システム的な制御」を推奨しています。
「紙・ローカル保存=安全」は大きな誤解!現場に潜む属人的リスク

経営陣やセキュリティ部門から「クラウドは漏洩が怖い。紙や鍵付きフォルダでの管理で良いのでは?」とツッコミを受けることは少なくありません。
現場で実際に起きている「ヒヤリハット」や不便さには、以下のようなものがあります。
- USBメモリの恐怖:「USBは必ずなくなるもの」 データを持ち運ぶためにUSBメモリを使用するのは非常に危険です。「落とさないように気をつける」という精神論では限界があり、物理的な紛失リスクは常に付きまといます。
- 紙の処分漏れリスク 面談のまとめデータを紙に印刷して確認した後、本来はシュレッダーにかけるべきものを「ついゴミ箱にポイっと捨ててしまう」といったヒューマンエラーはゼロにはできません。
- メール誤送信とパスワード付きZIPの限界 産業医から人事へ記録を送る際、メールの宛先を別の人に間違えて送ってしまうリスクがあります。手作業でのファイルのやり取りは、属人的なミスを誘発します。
- 「記憶頼り」の危うさ ローカル(PCのハードディスク内)にのみカルテを保存していると、外出先で人事から「あの件、どうでしたっけ?」と電話やメールで急な問い合わせを受けた際、手元にデータがないため「記憶だけで語る」ことになります。これは正確性の担保という面で大きな問題です。
安心して使えるシステム選び!現場目線で「絶対外せない」3つのセキュリティ要件

では、どのようなクラウドシステムなら安全と言えるのでしょうか? カタログスペックに惑わされず、現場の実務として「これがないと危ない」と言い切れる必須のセキュリティ要件は以下の3つです。
① 二段階認証(ワンタイムパスワード等)の導入
IDとパスワードだけの管理では、万が一パスワードを落としたり、使い回しによって漏洩したりした際に、第三者に簡単にログインされてしまいます。 しかし、ログイン時に別のアドレスやデバイスへワンタイムパスワードが届く「二重ロック」になっていれば、メールアカウント自体がハッキングされない限り、不正アクセスをほぼ確実に防ぐことができます。「自分のパスワードが漏れても最後の砦がある」という仕組みが実務上極めて重要です。
② 厳密なアクセス権限の管理
「誰が」「どこまで」見られるかをシステム構造上で完全に分離できる機能です。 産業医が保存したデータのうち、人事労務担当者(企業側)のアカウントからは「見て良い情報(就業制限の意見書など)」だけが閲覧でき、医療職しか見てはいけない詳細なカルテ情報にはアクセスできない、といった細やかな権限設定が必須です。
③ 操作ログの取得
「誰が・いつ・どのデータを・どう操作したか」というログが必ず残るシステムを選んでください。 万が一データが流出するような事態が起きた際、操作ログがなければ「単にデータが漏れました。終わり」となってしまい、産業医と企業側のどちらに原因があったのか、責任の所在を紐解くことができません。ガイドラインでも謳われている通り、事後追跡ができる仕組みは必須です。
クラウド化がもたらす「真のメリット」(産業医・人事それぞれの視点)

セキュリティ要件を満たしたクラウドシステム(産業医カルテ等)を導入すると、現場の働き方は劇的に変化します。
【産業医にとってのメリット:記録がその場で完結する】 1日に3件、5件と面談が連続している場合、WordやPDFで記録を作成して都度メールで送る作業は、時間内に終わらないことが多々あります。結果として家に仕事を持ち帰ることになり、記録の抜け漏れや遅れが発生しやすくなります。 クラウドシステムがあれば、面談が終わったそのタイミングでシステムに直接入力し、保存ボタンを押すだけで業務が完結します。記憶が新鮮なうちに確実な記録を残せるのが最大の魅力です。
【人事労務担当者にとってのメリット:情報の散逸を防げる】 産業医からバラバラのタイミングで、メール(パスワード付きZIP)や紙で送られてくる記録を、「どこに・どういうルールで保存するか」に悩む必要がなくなります。 システム上で「Aさんのデータ」「Bさんの就業制限意見書」と検索すれば一発で該当データにたどり着き、必要な時だけ印刷や出力ができるため、情報の管理・検索の手間が圧倒的に削減されます。
まとめ:コストではなく「投資」としてのシステム導入を
「システム導入=費用がかかる」と、どうしても及び腰になってしまう企業は少なくありません。
しかし、多機能すぎて高額なシステムを選ぶ必要はありません。面談記録の作成と共有という「エッセンシャル(必要不可欠)な機能」に絞った、使いやすいシステムを選ぶことが成功の鍵です。
現場の人為的ミスを防ぎ、産業保健活動の質を底上げするクラウドシステムへの移行は、単なるコストではなく、企業と従業員を守るための「価値ある投資」と言えるでしょう。
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