【理学療法士が教える】健康経営の促進に役立つエイジフレンドリー補助金とは?

「国で推進しているエイジフレンドリー補助金とはどんなもの?」 「活用するとどんなメリットがあるのかわからない」

厚生労働省が令和2年に創設した「エイジフレンドリー補助金」をご存知でしょうか。

健康経営を目指している経営者や労務担当者であれば、一度は聞いたことがあるかと思います。

しかし、概要や活用するメリットがよくわからないという方もいるでしょう。

本記事では、エイジフレンドリー補助金の概要や目的、活用するメリットに関して詳しく解説していきます。

エイジフレンドリー補助金に関する疑問を解決し、健康経営促進のためにお役立てください。

エイジフレンドリー補助金とは?

エイジフレンドリー補助金の概要や目的を以下より詳しく解説していきます。

制度の概要

エイジフレンドリー補助金とは、中小企業が高年齢者やすべての労働者の労働災害を防止するために、設備投資や労働者の健康保持・増進にかかった費用の一部を国が補助する制度のことです。

一般社団法人 日本労働安全衛生コンサルタント会が国から委託を受け補助事業者として、補助金の申請をしてきた中小企業の審査を行います。

制度の目的

エイジフレンドリー補助金の目的は以下になります。

  • 高年齢労働者の労働災害防止のために安全で働きやすい職場づくりを整えること
  • 企業に従業員の転倒防止や腰痛予防などの健康保持・増進活動に取り組んでもらうこと

高齢労働者は経験や知識が豊富で、仕事に対する責任感が強い反面、加齢による身体機能や精神機能の低下が労働災害の発生につながると言われています。 

令和5年の国の調査では、60歳以上の労働者の労働災害発生率を30代の労働者と比較したとき、男性では約2倍、女性では約4倍という結果になりました。(参考:令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況

また、高年齢者以外の労働者でも、仕事中の転倒や腰痛に悩まされている方はいるでしょう。

例として、さまざまな作業中に思わぬところでの転倒や、介護職や重量物を運搬する作業員などの腰痛が挙げられます。

そのため、労働災害やケガなどで従業員が休業してしまうと、健康保険料の上昇という形で会社の負担が増すほか、働き手が減少することで企業の利益にも影響を及ぼします。

すべての従業員の労働災害を防止し、健康で長く働き続けてもらうためには、安全に配慮した職場環境の整備や企業での健康増進活動の推進が重要となってきます。

そうした高齢労働者に対する中小企業者の取組を支援する目的で、エイジフレンドリー補助金が創設されました。

対象事業者と申請条件

エイジフレンドリー補助金の対象事業者は、労災保険に加入している中小企業事業者で、1年以上事業を実施していることが条件です。

業種業種の詳細常時使用する労働者数資本金又は出資総額
小売業小売業、飲食店など50人以下5,000万円以下
サービス業医療・福祉、宿泊業、娯楽業、教育・学習支援業など100人以下5,000万円以下
卸売業
卸売業100人以下1億円以下
その他の業種

製造業、建設業、運送業、農業、林業など
300人以下3億円以下

また、補助金制度が設けている3つのコース別に、雇用している労働者の要件に違いがあります。 詳しい要件の違いは次の見出しで説明していきますので、ご参照ください。

3つのコースの概要

エイジフレンドリー補助金は目的別に3つのコースが用意されています。

  1. 高年齢労働者の労働災害防止対策
  2. 転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース
  3. コラボヘルスコース

それぞれについて詳しく解説していきます。

高齢労働者の労働災害防止対策コース

60歳以上の高年齢労働者が作業中にケガや事故を起こさないように、身体機能の低下を補助する装置や設備を整えること等の労働災害防止対策が補助対象となります。

具体的な機器や装置の導入例を以下にまとめました。

転倒・墜落災害防止対策・作業場所の床や通路の転倒防止対策
・転倒時の怪我のリスクを減少する対策
・階段の手すり設置
・高所作業台の導入 など
重量物取り扱いや介護作業における
労働災害防止対策
(腰痛予防対策)
・不自然な作業姿勢を解消するための作業台設置
・重量物搬送機器
・リフトの導入
・パワーアシストスーツの導入
・介護職員の身体負担軽減のための介護術習得のための教育の実施など
暑熱な環境による労働災害防止対策
(熱中症防止対策)
・熱中症リスクの高い暑熱作業のある事業場における休憩施 設の整備
・体温を下げるための機能がある衣服の導入など
その他の高年齢労働者の労働災害防止対策
(交通災害防止対策)
・業務用車両への踏み間違い防止装置の導入

(参考:「令和6年度エイジフレンドリー補助金」のご案内

転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動コース

こちらのコースに年齢制限はなく労働者を常時1名以上雇用している、事業者が対象となります。

労働者の身体機能の低下による、転倒や腰痛などの行動災害を防止対策が補助金の対象となります。

具体的には、労働者に対し身体の専門家が身体機能のチェックし、運動プログラム立案のもと運動指導を行なった際にかかる費用が補助対象となるのです。

専門家とは、医師や理学療法士、作業療法士、健康運動指導士、労働安全・衛生コンサルタント、アスレティックトレーナーなどが挙げられる

注意が必要なのは、こちらのコースはあくまで転倒防止と腰痛予防に限られ、肥満や生活習慣病などの運動指導は次で紹介するコラボヘルスコースの対象となります。

また、専門家によるオンライン指導も補助金の対象となりますが、物品の購入はできません

コラボヘルスコース

こちらのコースにも年齢制限はなく、労働者を常時1名以上雇用している、事業者が対象となります。

「コラボヘルス」とは医療保険者と事業者が協力して、労働者の健康づくりを効果的・効率的にすすめていくこと

事業所の労働者の健康状態が記されたカルテや健康スコアリングレポート(健康保険加入者の健康状態や医療費、予防・健康づくりへの取り組み状況などをスコアリングしたもの)を活用し、労働者の健康保持・増進のためにかかる費用が補助金の対象となります。

具体的な取り組みは以下のようなものが挙げられます。

健康教育・研修等
(産業医、保健師、精神保健福祉士など)
・健康診断結果等を踏まえた禁煙指導
・メンタルヘルス対策等の健康教育
・健康づくりのための研修(オンライン開催も含む)
システム導入健康診断結果等を電磁的に保存及び管理し、事業所カルテや健康スコアリングレポートの活用でコラボヘルス推進のためのシステム導入
栄養・保健指導栄養指導、保健指導等の労働者への健康保持増進の取り組み(健康診断、歯科健康診断、身体機能チェック費用は除く)

(参考:「令和6年度エイジフレンドリー補助金」のご案内

こちらのコースでは事業主検診情報が保険者に提供されることを前提しております。

また、健康増進のための物品購入は補助金の対象外です。

エイジフレンドリー補助金を活用するメリット3つ

エイジフレンドリー補助金のコースについて解説してきました。

ここからは、エイジフレンドリー補助金を導入するメリットを3つご紹介していきます。

社会からの信頼感の向上

補助金を受けるためには、国から委託された補助事業者から厳正な審査を受ける必要があります。

国から認められた補助事業者からの審査を通過した企業は、社会からの信頼感向上が期待できます。

また、労働者の健康維持・増進を図ることで、「社員を大切にしてくれる良い会社」というイメージをもたれやすくなるでしょう。

社員の健康維持と生産性の向上

エイジフレンドリー補助金を活用して、機器の導入や専門家の運動指導を受けることで高齢者の事故やケガなどの労働災害や、作業で生じた転倒や腰痛などの行動災害を防止し、社員の健康を維持をすることができます。

上記のことは、社員の健康を守り作業効率や生産性の向上が期待できるでしょう。

社内での運動促進

エイジフレンドリー補助金の活用で、専門家による健康チェックや運動指導を受けることで、社員一人ひとりが自分の健康へ意識が向き、運動習慣が身につくことが期待できます。

ひいては社内での運動促進につながることが考えられます。

エイジフレンドリー補助金を活用するデメリット3つ

エイジフレンドリー補助金にはメリットの他にデメリットが3つ考えられます。 それぞれについて解説していきます。

事務手続きが面倒

デメリットの1つとして、補助金の交付までには、交付申請書類の提出や交付が決定してからの支払請求書類の提出など事務続きが面倒だというこが挙げられます。

補助金交付のためには必要な手順となるので、省略することはできませんが、事務手続きでわからないことがあれば、「エイジフレンドリー補助金事務センター」に問い合わせてみましょう。

要件の厳しさや申請期限がある

エイジフレンドリー補助金にはそれぞれのコースで、細かく用件が決まっています。

また、申請には期限もあるため、必要書類を期限内に提出するためには計画的に物事を進めていきましょう。

補助金の受給まで時間がかかる

補助金の受給までに時間がかかることがデメリットに1つとして挙げられます。

交付決定後、商品の発注や設備の導入、専門家への運動指導の依頼・実施を行なった後に支払請求書類の事務センターへの提出が必要となります。

その後、補助金確定と交付がされるため、すぐに補助金を受給できるわけではありません

事業を進めるにあたっては事前に資金を準備したり、資金が足りない場合には銀行等で融資を受けたりする必要があります。

職場でできる転倒予防のための体操

ここからは、職場でできる筋トレを紹介していきます。

職場のデスクに座ったままできますので、ぜひ行ってみてください。

1.イスに座ったままできる、太ももの筋力トレーニング

  1. 猫背にならないように姿勢を正し、背もたれから背中を離して座る
  2. 膝を曲げたまま右の太ももを天井の方向に持ち上げ、20秒キープする
  3. 右足を下ろし、左を同じように持ち上げ20秒キープする
  4. ②〜③を2〜3セット行う

太ももを持ち上げるときは呼吸を止めないようにしましょう。

痛みが出る時は無理をせず、休憩を挟んだり行わないようにしてください。

2.イスに座ったままできる膝の筋力トレーニング

  1. 猫背にならないように姿勢を正し、背もたれから背中を離して座る
  2. 右膝を伸ばし、つま先を天井に向けて20秒キープする
  3. 右足を下ろし左膝を伸ばして、20秒キープする
  4. ②〜③を2〜3セット行う

筋力トレーニングをするときは呼吸を止めないようにしましょう。

痛みが出る時は無理をせず、休憩を挟んだり行わないようにしてください。

3.イスに座ったままできるふくらはぎとスネの筋トレ

  1. 猫背にならないように姿勢を正し、背もたれから背中を離して座る
  2. 両足を床につける
  3. つま先をつけたまま、両足のかかとを持ち上げて下ろすを20回繰り返す
  4. つぎに踵をつけたまま、両足のつま先を持ち上げて下すを20回を繰り返す

筋力トレーニングをするときは呼吸を止めないようにしましょう。

痛みやふくらはぎが攣ってきたら無理をせず、休憩したり場合によっては行わないようにしてください。

まとめ:エイジフレンドリー補助金を活用して社員の健康を守りましょう

ここまで、エイジフレンドリー補助金について詳しく解説してきました。

エイジフレンドリー補助金を活用して高齢労働者をはじめ、すべての労働者の労働災害や行動災害を防止することは、企業にとって良い効果をもたらしてくれます。

労働者の健康維持・増進の推進は、社員が健康で長く働くことにつながり、企業の業績に良い効果をもたらしてくれることが期待できます。

また、「社員を大切にしてくれる良い会社」というイメージを持たれやすくなり、社会からの信頼度も高めることでしょう。

令和6年度の補助金申請の受付は終了しましたが、来年度以降の申請を考えている方は、本記事を参考にしていただければ幸いです。