従業員の診断書や、休職・復職判定における産業医の意見書など、健康に関する情報は個人情報保護法において「要配慮個人情報」に指定されています。
厚生労働省の指針でも、これらの情報は厳格なアクセス制御と履歴管理が求められています。
この記事では、産業医や人事担当者が「言った/言わない」の労務トラブルや情報漏洩リスクから身を守るための強力な武器となる「監査ログ」と「版管理」の基本について、わかりやすく解説します。
基礎知識:監査ログ(証跡)とは?

監査ログとは、システム上で「いつ」「誰が」「何のデータを」「どう操作したか(作成・閲覧・編集・削除・送信など)」を記録したデータのことです。
簡単に言えば、「デジタルの防犯カメラ」のようなものです。 健康情報という極めてセンシティブなデータを扱う人事や産業保健スタッフにとって、「ルール通りに適切に情報を扱っていること」を客観的に証明する強力な証拠(証跡)となります。
トラブルから身を守る!最低限残すべき3つの記録

システムを導入・運用する際、ただデータを保存できれば良いわけではありません。有事の際に身を守るため、以下のログが「自動で」記録され、後から検索できる仕組みが必要です。
- 作成・改訂ログ(誰が・いつ・どの文書を作ったか)
- 目的: 情報の出処と責任の所在を明確にする。
- 例: 「産業医のA先生が、10月1日10時に〇〇さんの復職に関する意見書を作成した」という事実を記録します。
- 閲覧・ダウンロードログ(誰が・いつ・その文書を見たか)
- 目的: アクセス権限の証明と、確認漏れの防止。
- 例: 「人事のB課長が、10月2日13時に意見書を閲覧(またはダウンロード)した」という事実を記録します。
- 送付・共有ログ(誰から誰へ・いつ情報が渡ったか)
- 目的: 情報伝達の確実な証明と、漏洩ルートの特定。
- 例: 「人事部から現場のC部長へ、就業上の配慮事項のみを10月3日に共有した」という事実を記録します。
「意見書_最新.pdf」の罠:版管理(バージョン管理)の重要性
監査ログとセットで必ず導入しなければならないのが「版管理(バージョン管理)」です。
産業医面談を実施した後、主治医からの追加情報や本人との再面談により、意見書の内容を書き直すことがあります。この時、最もやってはいけないのがファイル名による属人的な管理です。
意見書_〇〇様.pdf意見書_〇〇様_最新.pdf意見書_〇〇様_最新の最新(10月改訂版).pdf
このような管理をしていると、人事担当者が誤って「古い意見書」をもとに現場へ配慮の指示を出してしまう危険性があります。
「残業禁止」に変わったのに「残業月20時間まで可」の古いデータで動いてしまえば、会社の安全配慮義務違反に直結します。
システム上で「どれが現在の正本(最新の正しいデータ)か」が常に一目でわかる状態を作ることが、人事・現場の誤認識による重大な事故を防ぎます。
想定トラブル別:ログと版管理が会社を救う場面
実際に労務トラブルや疑義が生じた際、これらの仕組みがどのように機能するのか、具体的なケースを見てみましょう。
ケース1:「そんな配慮が必要だとは聞いていない!」
- トラブル: 復職後、現場の管理職から「就業制限があるなんて聞いていない、人事は何も教えてくれなかった」とクレームが入った。
- ログの力: システムの閲覧ログを確認し、「〇月〇日に現場管理職のIDで該当の配慮事項通知書が『閲覧済』になっている」ことを提示。言った/言わないの水掛け論を未然に防ぎます。
ケース2:「私の健康情報が漏れている気がする!」
- トラブル: 従業員から「産業医にしか話していないメンタル不調の内容が、関係ない社員に知られているのではないか」と不安や疑念の申し出があった。
- ログの力: 対象期間の閲覧・ダウンロードログを抽出し、「この文書にアクセスしたのは人事部長と担当産業医の2名のみである」と客観的なデータで証明し、従業員の不安を払拭するとともに会社の信頼性を保ちます。
まとめ:今の運用は大丈夫ですか?
健康情報の管理は、手間を省くことよりも「正確性」と「追跡可能性(トレーサビリティ)」が最優先されます。
メールでのパスワード付きZIP送信や、ファイル名による「最新版」の管理といった手作業には、誤送信や古い情報の参照といったヒューマンエラーが必ずつきまといます。
監査ログと版管理は、決して社員を監視するものではなく、万が一のトラブル時に正しい対応をしていた人事や産業医を「客観的な事実で守る」ための強力な盾です。同時に、従業員自身の安心感にも直結します。
もし「誰がファイルを見たか証明できない」状態なら、会社と担当者を守るシステム運用へ見直すベストなタイミングと言えるでしょう。

